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小林登文庫


「子ども学」事始め
掲載:1997/02/05

何故子ども学か
 −生物学的存在として生まれ 社会的存在として育つ−

 読者の中には、「子ども学」というと、おやっと思われる方が沢山おられるに違いない。筆者は、こんな考えで、「子ども学」を提唱しているのです。

 子ども達のために、何かをしたいと考える方々は、この世の中に沢山おられます。筆者の様な小児科医は勿論のこと、学校や幼稚園の先生、保育園の保母さん、そして当然のことながら親ごさんです。子どもの生活に関係しては、本・おもちゃやテレビ・ビデオ・ゲームを作る人達も、また、洋服・靴、更にはお菓子を作る人達もいます。そんな、子ども達に直接・間接に関係する人達は、夫々の立場で、これからの未来を託す子ども達のことを、良かれと考えているのです。

 そういう人達の学問的背景には、いろいろな学問体系があります。まず、発育学・心理学・教育学・保育学・育児学、そして小児科学・小児保健学も当然あります。更に間接的には、栄養学・法律学・社会学・工学・建築学なども関係してきます。考えてみれば、関係する分野には限りがありません。

 専門の立場で子どものことを研究なさっている方々は、夫々の学会で成果を発表し、基盤となる理念を討議し、意見を交換することが出来ますが、専門を越えて広く一緒になって、それをするとなると、なかなか機会はありません。それを解決するには、学際的に夫々の専門家が一堂に会して基盤理念を話し合うことが第一です。それを可能にする学問的基盤が「子ども学」なのです。

 「子ども学」の柱には、「子どもは生物学的存在として生まれ、社会的存在として育つ」という事実に対して、学問的にどのように対応するか、が重要と思うのです。この生物学的側面と社会的側面はインタラクティブで、それを切り離すことなく、総合的・統合的に捉えなければなりません。それが「子ども学」にかせられていると思います。

 「子ども学」という言葉を用い本を作ったのは恐らく筆者が始めてではないかと思いますが、自信はありません。1985年、小嶋謙四郎先生・原ひろ子先生・宮沢康人先生と計って、「新子ども学」を出版しました。「新」とつけたのは、子ども学という言葉を使ったのは、私が最初かどうか自信がなかったからです。本書は、「育つ」「育てる」「子どもとは」の三部からなり、子どもの生物学的側面と社会的側面をカバーすることを目的としたのです。これを出版したのは海鳴社で、この本で表彰をうけました。

 爾来「子ども学」という考え方は次第に普及し、数年前には、ベネッセ・コーポレーションから季刊誌「子ども学」が出版されるようになりましたし、甲南女子大学からは定年退官後の私に「子ども学」の講義の依頼がまいり、昨年四月から始めているところです。その上、大学に国際子ども研究センターをつくる話が始まっています。

 更に私にとって嬉しいことは、「子ども学」の新しいタイプの研究所が作られたことです。子どもに関係する研究は、夫々の分野で大学なり研究所などの沢山のところで行われています。何を今更と思われる方々もおられるのは当然のことです。私の研究所はシンクタンクの様なもので、インターネットで、あちこちで行われている研究ばかりでなく、子どもに関係する現場の情報も集め分析すると共に、国内・外の関係と交流するのが目的なのです。

 この考えは、1991年、特別講演で招かれた子どもに関する国際会議で、話し合った時に出たものです。来るべきマルチメディア時代にそなえて、インターネットを利用した、サイバー研究所と言えましょう。幸い福武教育振興財団、ベネッセ・コーポレーションの絶大な御支援をいただく事が出来、チャイルド・リサーチ・ネット・CRN(Child Research Net. http://www.crn.or.jp/)として出発したところです。国内では「マルチメディア時代の子ども達」「いじめ問題」をとり上げ、やりとりが始まったところです。国外でも、ノルウェーとリンクして、「マルチメディア時代の子ども達」を始めたところで、これからが楽しみです。

 「子ども学」は、まだ十分に体系づけられたものではありません。ただどなたも、現在の子ども達の問題を考える方は、その必要性をお認め下さると思います。私個人として、上述の実践を通して、「子ども学」を体系づけたいと思いますので、いろいろ御教示下さい。

全私学新聞 1月3・13日合併号 掲載
 




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