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小林登文庫


「子ども学」事始め
掲載:1997/09/26

スキンシップの意義
 −精密な子育てのプログラム〜肌のふれあいが心に絆−

 母子相互作用は、生活力が不十分な赤ちゃんを母親が育てていくために必要な仕組みなので、母と子の行動のやりとりによって、母子間に心の絆をつくり、母子結合という人間システムを作り上げる、自然のメカニズムであることを、前回申し上げた。分析的にみれば、母子相互作用は、子育て行動による、五感を介してのいろいろな情報のやりとりと見なすことが出来る。

 子育てには、いろいろな行動のやりとりがあるが、だっこ・おんぶ・そいねなどのスキンシップを中心とする行動、あやす・いないいないバァ・たかいたかいなどの遊びを中心とする行動、そして母乳や粉ミルクによる哺育・衣服やおしめをかえる・入浴などの生活の世話を中心とする行動との、三つに大別することが出来る。

 子育て行動の第一のグループ、スキンシップを中心とする相互作用をまず考えてみたい。これは、触覚を介しての相互作用である。注意すべきは、スキンシップという言葉は、日本人の作った英語もどきであって、正しい英語では”touch”(ふれあい)なのである。

 スキンシップ(タッチ)は、触覚を介しての感性情報のやりとりであることは、どなたも理解されよう。生まれたばかりの赤ちゃんが産ぶ声をなかなか泣き止めないでいる時、母親なり助産婦さんが抱き上げると泣き止めるのは、肌なりシーツを介して母体の温もりを、赤ちゃんが感じて安心するからである。あるいは、子宮内で守られていた生活を思い出すからかもしれない。

 ともかく、赤ちゃんは生まれながらにして、触覚はちゃんと機能しているのである。当然のことながら、母親も、生まれて初めて、わが子の柔らかい肌を感じて、母親になった喜びをかみしめることになる。

 生まれたばかりのはだかの赤ちゃんを、母親のわきにそっとおいて、母親のわが子に対する行動をビデオにとって分析した研究がある。まず指先で、わが子の手・足を、そして体をさわり、数分のうちに手を広げ体をさわるというパターンをとったと報告されている。そして、多くの母親は、わが子と顔を向き合わせ、目をあけていれば、それをじっと見つめ、さらに、わが子を抱きかかえて、乳首をふくませる行動をとったのである。

 こんな報告をみると、スキンシップ行動もプログラムされている、特に女性では、と考えるべきかもしれない。

 住宅事情のあまり良くないわが国では、母親がわが子と添寝するのは珍しい事ではない。しかし、幼児虐待の多発するイギリスでは、多発の原因はスキンシップの欠如にありと、それを心配した小児科医が、添寝を推進する運動を展開したことがある。そのため、まず彼は、添寝を研究したのである。

 すなわち、赤ちゃんを母親と一緒に病院で寝かせて、睡眠中の行動をビデオにとって分析した。その結果、二つの面白い結果が得られたのである。

 第一は、添寝させた組み合わせの赤ちゃんは泣かなかったということであった。十何組かの組み合わせの中で、ひと組の赤ちゃんだけが泣いたが、調べてみると、厚い衣服でスキンシップが出来ない状態であったことが明らかになった。そこで、肌と肌とのふれあいが出来るように衣服を取ると、泣き声はピタリと止まったそうである。

 第二は、赤ちゃんの体の動きに対応して、母親は眠っているにもかかわらず、自然に自分の体を動かし、二人は離れることはなかったのである。赤ちゃんが左に動けば、母親の体も左に動き、右に動けば右にと、二人は仲よくダンスしているようであったと報告されていた。

 母親の子育てのプログラムはいかに精緻に出来ているかが理解される。

 添寝している赤ちゃんが死亡したというニュースが出ることがあるが、母子が健康であるならば、殆どの場合は原因は窒息以外にあるようである。母親のアル中がイギリスで問題になり、乳児突発死症候群などが日本でも問題になっている。

全私学新聞 平成9年6月23日号 掲載分に加筆、修正した




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