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小林登文庫


「子ども学」事始め
掲載:1997/11/21

友達づくりの発達
−今、友達づくりに破綻〜子ども生態学からの検討必要−

 子どもが人生でもつ人間関係は、母子から始まって、父子、そして兄姉、さらに祖父母などと家族の中の人間関係へと発展します。すなわち、遺伝子を共有する人々との関係で始まります。

 それはやがて、子どもの自律・自立・社会化とともに、隣のおばさんなど、そして保育園・幼稚園・学校に入れば、同年代の子どもたちと仲間づくりに入る。もちろん、そこで教えたり、世話したりしている先生たち大人との人間関係も形成していきます。

 子どもたちの仲間づくりの発達をみたり、人間関係の中で社会生活をいとなんでいる姿をみると、この仲間づくりの力は、生得的な力で、心のプログラムのひとつに位置づけられるのではないでしょうか。

 赤ちゃんは、生まれながらにして、人間の顔に関心を示すことはお話ししました。2ヶ月になれば、自分のまわりをぐるぐるまわる人や、家族の団欒(だんらん)の中で好ましい人に対して意味のない声、クーイングをするようになります。

 半年にもなれば好ましい仲間に微笑みかける、10ヶ月には、指でポインティングする、手を出して体をさわろうとする(タッチング)、そしてキスしようとさえするのです。

 そんな可愛い赤ちゃんの仲間づくり行動をみると、教えられたものではなく、それはまさにプログラムされているといえましょう。

 保育園・幼稚園に入れば、集団生活の中であそびを介しての仲間づくりになる。初めはお互いに関係なくひとり遊びするだけ、そこに仲間がいることが重要なようです。いわゆる平行遊びです。

 3歳ごろになれば、運動能力も会話能力もついてくるので、お互いに意識して仲間とつき合い始めます。もちろん、ひとり遊び、平行遊びが減少し、砂遊びのような役割分担はみられませんが、同じような行動をとる遊び、そして、役割分担する鬼ごっこのような協同的、組織的な遊びへと発展します。幼児期の仲間づくりは、男女未分化であり、好みもなく、変化しやすいものです。

 学童期に入ると、仲間づくりは、学校での授業とか行事が遊びのほかに加わって、大きく展開します。学級の中での子ども同士のふれあい、そこで起こる感情の交流、そんな中で好きな友だち、中性的な感情を持つ友だち、避けたり嫌ったりする仲間などに分かれます。

 友人が好きになる理由で大きいのは、学級内の席が近い、家が近い、通学路が近いなどの空間的な理由ばかりでなく、感じが良いとか、親切でやさしいなどの感情的なものです。しかし、年齢とともに、学業・知能・人格が優れていることを尊敬するとか、教え合う、助け合う、チームワークがうまくいくなどのレベルの精神的なものが、理由として大きくなってきます。

 小学校低学年から高学年、そして中学校に入ると、尊敬や好意による人格的な仲間づくりや、共通の目的をもつ同志的な仲間づくりになる。

 同志的な同性の仲間づくりの特殊なものとしてギャング・グループがあります。すなわち、7、8人の活発な遊びを中心として所属意識をもって集まり、リーダーが出て役割分担が明らかな仲間ですが、親や先生の意向に反する行動さえとるようにもなりますが、ほとんどは問題はないものです。

 このように、年齢に応じて、仲間関係(peer relation)の発達は、いろいろなパターンを変えながら発達していくものです。

 子どもは、仲間づくりの心のプログラムを作動させながら、家庭や保育園・幼稚園・学校の生活の場で、友だちをつくり、人間関係のあり方、集団生活の場での生き方、社会的な規範(ノルム)を学んでいくのです。そして、その中の「けんか」も社会訓練として大きな役を果たしています。

 しかし、今その友だちづくりに破綻が起こっているのです。それは、「いじめ」の陰湿化、非行の若年化、さらにはベル友・プリクラという従来みられなかった仲間づくりの方法で代表されるものです。この問題を考えるには、チャイルド・エコロジー(子ども生態学)が重要であると思います。

 子どもは、家庭生活の中で生き、家庭は社会に存在し、家庭と社会との間に学校(保育園・幼稚園も含めて)があるのです。すなわち、家庭・学校(幼稚園・保育園)・社会という同心円構造の生態系の中で、その社会文化という生態因子の嵐の中で子どもは生活していると考えるのがチャイルド・エコロジーです。その立場から、これらの問題は考えなければならないものです。

全私学新聞 平成9年8月13日、23日合併号 掲載分に加筆、修正した




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