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小林登文庫


「子ども学」事始め
掲載:1998/01/09

「子どもの行動問題と生活リズム」
 −「自然のリズム」からの遊離〜不登校などの問題の原因に−

 1980年代に入って、アメリカやわが国で、睡眠のリズムと日常生活のリズムが合わないと、子どもは不登校、大人は就業困難で代表される多彩な問題行動を起こすことが報告されました。

 その原因は二つありましょう。子どもの体のリズムの代表である睡眠のリズムそのものが異常なのか、日照リズムを含めての生活のリズムが乱れているからなのかのいずれかでしょう。

 前者の可能性を示すものとしては、本人がいかに努力しても、睡眠をとる時間帯が普通より数時間遅れている状態(睡眠相後退症候群・DSPS)や、睡眠をとる時刻が毎日一、二時間ずつ遅れていく状態(非24時間睡眠覚醒症候群・Non-24・S)などが問題となっています。

 後者は、受験勉強、塾やおけいこ、さらに夜の社会活動の活発化などで、子ども達の生活のリズムはますます自然のリズム、学校などのスタンダードなリズムから離れている実情がそれでしょう。

 不登校・登校拒否の子ども達の睡眠のリズムをみると、家庭内暴力などの問題行動、頭痛や腹痛などの身体的愁訴は、日照リズムと同調しているときは少なく、失調しているとよくみられることが報告されています。

 もっとも、上述の問題を明らかにするには、生体リズムの仕組みについて、不明の点があまりに多いのです。しかし、生き物はそれぞれの生理機能には固有のリズム、さらに生活環境のリズムにそれを対応させる力をもち、それは遺伝子によって支配されていることが明らかになっています。はじめ、ショウジョウバエで明らかになり、次々といろいろな遺伝子が発見され、マウスにまでも証明されているのです。

 したがって、人間の心拍動や呼吸運動のリズム、睡眠のリズム、さらに月経周期のリズムと、いろいろなリズムを決める遺伝子が次々と明らかになる可能性はあります。そうすれば、上述の問題の仕組みが解明され、医学的な対応も進みます。

 どうして、生き物、ひいては人間はリズムの遺伝子をもつことになったのでしょうか。考えてみれば明らかで、生命はリズムの中で進化したからです。

 宇宙にこの地球が現れて45臆年、その時点からリズムがありました。地球が太陽の周りを回ることによる春夏秋冬のリズム、地球の自転による朝昼晩、すなわち日照のリズムです。そんなリズムの中で海が出来、月の引力による潮の干満のリズムも加わりました。

 その海の中で化学反応が起こり、生命の原型の分子が生まれ、化学進化によって38億年前に生命の基本形が誕生しました。そして、単細胞生物が出来、生物進化が始まり、多細胞生物、動物と植物に、そして動物は脊椎動物、すなわち魚類・は虫類、そして海から陸に生活の場を変えながら、恐竜の時代を経て、哺乳動物に進化し、やっと500年前にヒトがアフリカに現れたのです。

 生命は、そもそもの出発点から日照リズムに代表される自然のリズムの中にあり、それに適応して進化してきたと言えます。自然のリズムに手際よく対応するため、進化の初期にリズムの遺伝子をもったに違いありません。

 人間がリズムの遺伝子をもった以上、それに突然変異などによって異常が起こっても不思議はありません。上述の二つの症候群はその代表かもしれません。それをもった子ども達は、自分の体のリズムと自然のリズムとが合わなくなり、行動問題をふくめていろいろな異常は当然おこりうることです。

 もっと問題なのは、自然のリズムに対応する遺伝子をもったわれわれには、自然のリズムで生活していたハンティング・ギャザリングの時代には問題はなかったのですが、現在のように生活のリズムが自然のリズムからあまりにもかけ離れていることです。

 われわれの生活の中では、太陽の光のリズムは、電気エネルギーの光で乱されている上に、深夜放送などで代表される社会文化によって夜型生活が進み、45億年体験してきた自然のリズムから離れてしまっているのです。

 豊かさによって、社会や家庭のリズムが大きく変わり、子ども達が生き物としてもっている体のリズムが合わなくなり、問題行動を起こしているとも考えられるのです。

全私学新聞 平成9年10月23日号掲載号に加筆、修正した




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