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小林登文庫


「子ども学」事始め
掲載:1998/03/13

5つある「発育の原則」
−季節などが成長速度に影響〜思春期長い男子がより成長−

 発育とは、体の成長と心とか機能の発達とを含めた広い概念であることを、前号で申し上げた。したがって広くとれば、正常な受精卵から始まって一人前の健康な大人になるまでの全過程であって、そこにはいろいろな変化がみられる。この多彩で多様な現象をみると、あまりにも複雑であるが、そこにはある程度の原則を見いだすことができる。今日は、この「発育の原則」を整理してみたい。

 発育の原則は、一応5つあると考えられる。その第一は「順序性」である。発育に関係する現象は、一定の順序で進む。

 この地球上に、35億年前、生命の原型となる分子構造が現れて、20億から30億年前、それが単細胞生物、多細胞生物、動物と植物に、そして動物は脊椎動物、特に4億5千年前から魚、爬虫類、恐竜、哺乳動物、そして人間にと進化した順序が、現在のわれわれの遺伝子の中に生きていると考えられるのである。したがって、発育現象にみられる順序性は、遺伝子のレベルで決まっている。

 母親の子宮の中で、胎児のからだの発育やからだの中の内臓の発育は、同じ順序で進むのである。また、乳幼児期の運動機能の発達には、首がすわる、おすわりする→はいはいする→つかまり立ちする→ささえ歩きする→ひとり歩きする、という順序がみられるのである。

 もちろん、子ども達の遺伝子構成の多様性を反映して、多少の時間的な違い、ある子は早く、ある子は遅いということはみられる。また、ある行動なりの発現時間の長短もみられる。いわゆる個人差というべきものである。

 最近、はいはいすることなしに、つかまり立ちしたり、歩き始めたりする赤ちゃんがみられるようになった。原則破りということになるが、はいはいする行動の持続時間が著しく短くなって、目につかなかったと考えるべきものと思う。

 畳での生活がなくなり、椅子や机の生活が多くなり、つかまり立ちしやすい生活環境がそうさせたのかもしれない。赤ちゃん自体にはまったく問題ないのである。

 第二の原則は、発育速度の多様性である。成長は身長や体重のように測定できるものが指標になっているので、身長の成長速度について考えてみたい。

 身長の増加していく速度は、胎児期と思春期が速い。目に見えないような受精卵が身長50cmの赤ちゃんになるのであるから、胎児期、しかも終わりの方が思春期より速いことになる。

 つまり、胎芽(胎児になる前)・胎児と出生にむけ、加速しながら身長を伸ばし、生まれてからの乳幼児期は減速しながら伸ばし続けているのである。

 思春期にはいると、再び加速しながら身長を伸ばし続け、15、16歳を過ぎると再び減速し始め、20歳前後に最終の身長に達する。その後の成人期では身長の伸びはほとんどない。身長の増加の速度はほぼゼロということになる。

 したがって、身長は二つのピークをかけ上り、また下りながら、最終の身長になると言える。あとのピーク、思春期にみられる急速な身長の増加を「スパート」という。

全私学新聞 平成10年1月23日号掲載分に加筆、修正した





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