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小林登文庫


育つ育てるふれあいの子育て
第3章「赤ちゃんのすばらしい能力-そのプログラムは体の成長、心の発達の原点−9」


子ども達の行動の問題はどうして起こるか-プログラム論で考える

 現在問題になっている「いじめ」「ムカつく」「キレる」「暴力」などの子どもの行動の問題を、私はこう考えているのです。赤ちゃんが、生まれながらにして持っている、脳の中でバラバラになって存在するいろいろな基本的な心のプログラムが、子育てや教育の中で大脳、とくに大脳皮質、なかんずく前頭葉皮質の支配(中枢支配)に移行できなかった子ども達が問題行動をおこすのではないかと思われるからです。勿論、それを証明するには、尚多くの研究が必要ですが。
 原始歩行の話、さらには微笑の話のところで、末梢支配から中枢支配への移行、反射行動から大脳でコントロールされる行動の変化をお話ししましたが、人間の心のプログラムも同じではないかと思うのです。
 心理学でいう基本的信頼を形成するということは、バラバラな心のプログラムを、乳幼児期の子育てによって、信ずるという心のプログラムを柱にして、中枢支配に移行すること、すなわち大脳の前頭葉を中心とする高度の精神機能でコントロールすることが出来るようにすることのように、私には思えます。これには、特に信ずるという心のプログラムが大切なのでしょう。
  最近「心の理論」という考え方も出てまいりました。イギリスやアメリカの心理学者が問題にしている理論です。「他者の心の状態」例えば他者の目的・意図・知識・信念・思考・疑念・推測・ふり・好みなどを理解する脳の仕組みは、人間では3、4歳にならなければ出来ないと考えているのです。「心の理論」はそもそも霊長類学者が言い出したもので、チンパンジーも、ある程度それを持つことが出来るのです。逆に自閉症などの疾患は、それが発達しない状態であると考えているのです。
 この「心の理論」も、私から見れば、前に申しましたように生まれながらにして持っている心のプログラムを組合わせて出来ると考えればよいのだと思うのです。
 他人の心をよみとる、「心の理論」を構成することが出来るようにするのが、育児や保育、さらには幼児教育の目的であると言えましょう。それが、他人の悩みや苦しみに対する共感の心のプログラムといえるのです。
 それは母と子、子どもと関係する人と子どもとの関係の中でつくられるものであり、そういう人たちの子どもの心を読みとる力、ふれあい豊かな子育て行動のやりとりが重要であると思うのです。
 そうした基本的信頼とか心の理論がつくられない限り、爾後の教育やしつけや、場合によっての厳しいものも、有効に機能しないと思うのです。
 「いじめ」の問題にしろ、「ムカつき、キレて」「思春期の子供たちの殺人事件」なども、同じような原因と考えられるのです。その行動の問題のパターンがどうであれ、そのような暴力とか虐待あるいはそれに準ずる行動が起こるのは、脳の中にある「攻撃」の心のプログラムが、何らかののメカニズムによって作動するからであるとも言えます。しかし、攻撃の心のプログラムは、そもそも生存と深く関係し、安全に対する脅威に対処するためのもので、不安とか恐怖などの情動の心のプログラムと表裏の関係にあると考えられるのです。
 猫の脳の中にある特定の部分を刺激すると、背中を丸め、毛を逆立てて歯をむき出すという攻撃的な行動をとることは知られています。その場所に、猫の攻撃の行動を起こさせるニューロンのネットワーク・システムと、それを働かせる心のプログラムがあると考えられるのです。人間も同じであると言えます。
 それは、脳の基底部、視床下部など脳の中心にあるニューロンを結びつけて、攻撃的な行動を起こさせるネットワーク・システムが、それを作動させるプログラムと共に存在しているのです。このシステムには、アドレナリンのようなモノアミンやエンケファリンのような神経ペフタイドが関係することも明らかになっています。
 人類が進化の過程で、脳の中にこの攻撃のニューロンのネットワーク・システムとそれを働かす心のプログラムを持ったので、人類は現在まで生き延びれたのでしょう。自然や外敵と戦わなければ生存も危うかったからです。
 しかし、その基本的なものは、遺伝的に決まるとしても、生まれてからの生活環境によって、他のプログラムと結び付き、組み合わされて、攻撃のプログラムを、大脳皮質、特に前頭葉のそれでコントロールすることが出来るようになると考えられます。そうすれば特別なことが起こらない限り、生活上の出来事に手際よく対応し、虐待や暴力を振るうことはないのです。特に、文化を創造する高度な精神機能、大脳皮質に関係する考える・学ぶ・真似る・信ずるなどの心のプログラムと組み合わされ、コントロールされるようになると考えればよいと思うのです。
 暴力を振るったり虐待するような人は、乳幼児期の育てられ方によって、残念ながら攻撃の心のシステムと高度の精神機能のシステムとのつながりが出来なかったからに違いないと思います。もちろん、これは私の考えであって、証明はされていませんが。
 また社会に見られる暴力や問題行動の多発を見ると、コントロールしにくい攻撃の心のプログラムを持っている人にとっては、生活の場はあまりにも不安などストレスが多く、スイッチが入りやすいすいことも、考える必要があるのではないでしょうか。
 プログラムにスイッチを入れるのは、情報であることを申し上げましたが、攻撃のプログラムにスイッチを入れるのは、不安やストレスを強める情報なら、なんでも関係すると考えられましょう。しかし、それを押さえるには、他人の悩みや苦しみを理解できるような共感の心のプログラム、心の理論のプログラムをつくらなければなりません。それに優しさで代表される感性の情報の果たす役割が大きいと言えます。
 現在の社会を見ると、日常生活での競争も激しく、人間関係も希薄で、共感の心を持って、身近な人に優しくすることがなくなっています。社会全体が優しさ豊かな場になれば、子供たちの育つ過程の中で、優しさの体験によって、攻撃の心のプログラムも大脳でコントロールされるようになり、不幸にしてコントロールしにくくなった場合でも、スイッチが入りにくくなるのではないかと考えています。
 


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掲載:2002/10/11