●HOME●
●図書館へ戻る●
●一覧表へ戻る●



小林登文庫


新・こどもは未来である
掲載:1998/10/15

<人生の4分の1をかけておとなに−1>

 前回までは、恋愛によって新しい遺伝子の組み合わせがつくられて生命が誕生するまでのしくみ、そしてその遺伝子の多様性ゆえに人間の個性というものは、非常にバラエティ豊かなものになるというお話をしました。今月は、人間がおとなになるまでの成長過程と、成長における2つの山についてみていくことにしましょう。

身体の成長曲線には2つののピークがある

 人間は、身体が完成して生殖能力を完成するのにほぼ15年。人生を60年とすると、その4分の1をかけることになります。イヌやネコで7〜10か月、その寿命の20分の1〜25分の1です。人間が身体的に一人前になるには、なんと長い時間をかけていることでしょう。

 生まれたばかりのこどもの身長は約50センチ、おとなの身長は160センチ〜170センチです。あるこどもがおとなになったときに到達しうる身長は栄養などの外からの影響もありますが、多くの遺伝子によって決まっています。受精卵から始まるこどもからおとなへの身長の変化の速度はけっして一様ではありません。ある単位時間にみられる身長の伸びの大きさは、身長の伸びの速度と考えられ、それが一定していないのです。
 
 身長の伸びの速度を追ってみますと、「人生には2つのピーク(山)がある」ことがわかります。第一の山は生まれる前であり、第二の山が思春期にあるのです。

 目で見えるか見えないくらいの受精卵が、身長50センチの胎児となるのですから、生れる前の身長の伸びの速度はいかに速いか想像つくでしょう。第一の山がそこにあるのです。

 生まれてからのこどもの身長の伸びの速さは急速に遅くなりますが、男の子だと声が変わり、女の子だと乳房がはってくる頃になると、その速度は再び急に速くなるのです。もちろん第一の身長の伸びの速度の山より第2の山のほうが低いのですが、こどもはこの2つのピークの山をかけあがって、おとなの身長に達するのです。

 小学校のとき小さく、クラスの背の順で列の前のほうにいたこどもが、中高生になって急に大きくなって列のうしろのほうに行くことがあります。この子は第二の山が高く、それをかけのぼったからなのです。第二の身長の伸びの速度の山がいつ始まるか、すなわち性ホルモン(注1)などの分泌がいつ始まって思春期に入り、身長が伸び始めるかという時点は、個人差が大きいのです。とはいえ、第一の山の型、第二の山の型は、人種やそれが生活している場においては、ほとんど同じ型なのです。

 おとなになったときの身長を正確に予言することはできません。あまりにも多くの遺伝因子(注2)や、環境因子(注3)が関係しているからなのです。身長の高い両親のこどもは高く、栄養のよい子も高い、くらいのことは言えますが、不明な点があまりにも多いのです。

 ロンドンのロイヤル・バレエの学校では、こどもを入学させる場合、その子が将来プリマドンナになることを考えて、おとなになったときの身長を考慮すると言われています。背が低くてはステージでサマになりませんから。

 その場合、本人のそれまでの身長の変化、両親、家系の身長はもちろんのこと、レントゲン写真で骨まで調べるのです。それでもピッタリとおとなになったときの身長を予測することはできないものなのです。



(注1)性ホルモン
主として生殖腺(卵巣・睾丸)より分泌され、生殖器系の発達、機能維持を促進し、第二次性徴や生殖行動をもたらすホルモン(エストロジェン・アンドロジェンなど)の総称。

(注2)遺伝因子
遺伝を概念的によぶ場合に、遺伝因子とよぶ。

(注3)環境因子
人間をとりまく様々な因子。空気・水などの物理化学因子、日照・温度などの自然因子、ウイルス・細菌などの生物因子、都市・人口密度・生活習慣・ジャーナリズムなどの社会あるいは文化因子など、環境は多くの因子で構成されている。

このシリーズは「こどもは未来である」(小林登著・メディサイエンス社1981年発行)の原稿を加筆、修正したものです。





Copyright (c) 1996-, Child Research Net, All rights reserved