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小林登文庫


新・こどもは未来である
掲載:1999/11/26

<人生ではじめての社会行動はうぶ声−1>

 赤ちゃんの泣き声をきいて心を動かさない人はありません。赤ちゃんが泣きやめないとき、それを聞いたおとなは、どんな人であっても、無視することはできません。
 大部分の人は、泣き声の音源の方向になんらかの関心をしめし、また行動をおこすでしょう。その反応と行動は、女性であるならば、しかもこどもをもったことのある女性ならばとくに、さらに母親であるならばかならず、速く強いものなのです。

人生ではじめての呼吸

 赤ちゃんの泣き声は、人間としての社会行動のはじまり、コミュニケーションのはじまりなのです。この世に生まれでるとき、産道の機械的なあらしの中をとおりぬけたその時点で、高らかに産ぶ声をあげますが、それが赤ちゃんの全ての行動の第一歩なのです。
 子宮の中は暗いところではありますが、そこで安らかにねむっていた赤ちゃんは、分娩過程では陣痛とともに圧力がかけられるお産の嵐に対する驚き、なんらかの苦痛を感じるのでしょう。また母子分離に対する不安も感じるのでしょう。産ぶ声は、人生でのはじめての呼吸の確立という重大なできごとであるとともに、母体から離れる赤ちゃんの悲鳴であると考えるべきものです。
 しかし、これによって生まれてまず呼吸の確立がなければ、生まれでた赤ちゃんは生きることができません。
 生存と深いかかわりのある産ぶ声で、泣く技術を学んだ赤ちゃんは、日齢・月齢とともに表現の豊かさをまし、赤ちゃんの育つ心を現わす泣き声にかわり、それはクーイング・喃語、そして二語・三語の幼児語、さらにわれわれが日常使っている言語にと発展するのです。人間の言葉を話すという行動は、ほかの哺乳動物ではもっていないコミュニケーションの手段なのです。
 さて、人生最初の社会行動としての泣き声はどのようにして作られるのでしょうか。
 深く吸いこんだ空気を、肺から気管支・気管とだしながら、声帯と気道の下部で振動をおこさせ、胸部・咽頭・喉頭・口腔に反響させることで、その泣き声はつくられるのです。それが声に変わるには、そのシステムの構造が発達によって変わらなければなりません。


このシリーズは「こどもは未来である」(小林登著・メディサイエンス社1981年発行)の原稿を加筆、修正したものです。






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