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小林登文庫


新・こどもは未来である
掲載:2000/01/28

<赤ちゃんは笑って行動する−1>

 人間は笑います、大人もこどもも。しかし、いったい笑いとはなんでしょうか。人間の感情を反映して、顔面筋を複雑に収縮させる行動とでもいえましょう。声をたてるばあいもあるし、声をたてないで静かに笑う(ほほえむ)ばあいもあります。
 たしかに広く自然界をみると、笑うという行動は哺乳動物の中でも、高度の感情機能の発達しているヒトにしかみられないようです。もっとも猿類では、くすぐると笑いに準ずる反応をみせるようですが。

生後3〜4カ月までには全員が笑う

 人間にみられる笑いという行動の個体発生(注1)、あるいは発達は、どうなっているのでしょうか。健康ならば、生まれたこどもの約半分は生後6週ごろまでには笑い、生後3〜4カ月までには全員が笑うようになるものなのです。
 もっとも生後1週間以内でも、哺乳後や眠りにはいるときに笑う赤ちゃんが100人にひとりくらいの頻度で、みられると報告されています。しかし、それは顔面筋収縮による顔面の変化としての笑いであって、外からのある種の刺激に反応してでる、感情のともなった笑いではないと考えられるのです(non-elicited smile)。しかし、気持のよくない時には、この変化はあらわれないようです。
 新生児以後にでてくる笑いは、刺激に反応して感情をともなったものであり(social smile)、社会生物的にみて意義のある行動なのです。そして、それはコミュニケーションの手段として、赤ちゃんをとりまくおとなに、独特な共感をまきおこすものです。
 しかし、笑いは脳の中におこった「うれしい」とか「よろこび」とかいう感情を顔に現わしているだけなのでしょうか。人間は、顔の筋肉を動かして表情をつくると共に、必要な脳の血液の量をコントロールしているのだという考えもあるのです。急速に発達する赤ちゃんの脳には笑いが必要なのかも知れません。

赤ちゃんの笑いを引きおこすもの

 赤ちゃんは、いろいろな刺激に反応して笑うのです。赤ちゃんの顔のあちこち、とくに口唇にふれたりなどの愛撫によって、また声をかけることによって、赤ちゃんはほほえみ、また笑うのです。
 一般に声をかけることにたいする赤ちゃんの反応にはあまり特徴的なものがないといわれていますが、笑い反応だけは例外なのです。声をかけられたときにしめす赤ちゃんの反応は笑い反応が唯一であるとさえいわれています。しかし月齢とともに、顔をみせる、とくに表情のある顔、動く顔などの視覚刺激にたいして、笑い反応を強くしめすようになります。
 したがって、声をかけながら、顔を動かす行動には、もっとも強い笑い反応をしめします。親がわが子に向かってする「イナイ、イナイ、バー」の行動が、赤ちゃんの全身的な笑い反応を引きおこすことは、こどもをもったことのある人はだれでも体験することなのです。



(注1)個体発生
受精卵(または単為発生卵、あるいは無性的に生じた芽や胞子など)を出発点とする生物個体の発生の全過程をいう。とくに多細胞動物の発生についていう時に用いる。ここでは、笑いという行動が、いつごろから現われ、変化していくかをさしている。


このシリーズは「こどもは未来である」(小林登著・メディサイエンス社1981年発行)の原稿を加筆、修正したものです。






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