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小林登文庫


新・こどもは未来である
掲載:2000/02/25

<ねる子は育つ−1>

 ねる子は育つといわれ、赤ちゃんのすやすやと眠る姿は、平和そのものです。
 ねること、すなわち睡眠は、生理学的にみますと、周期的に安静をとる生体機能のひとつなのです。睡眠を人為的に除去すると、すなわちねむれないようにすると人間は数日のうちに錯乱状態におちいってしまうものです。また、母親の愛情にめぐまれない子供は、ねむりのパターンがみだれ、また脳に障害のある子供においても、とうぜんですが、それがみられるのです。
 人間はその人生の約3分の1を睡眠についやすと計算されていますが、子供はおとなにくらべて、睡眠が長いものです。赤ちゃんのかわいい寝顔の裏には、いったいどんな生命の力が働いているのでしょうか。

赤ちゃんのねむり、こどものねむり

 こども、とくに乳児では、睡眠時間が長いこと、成長にともなって減少することはよく知られた事実です。生まれたばかりの赤ちゃんは、1日で16〜17時間、1日の3分の2以上も眠っていることになります。しかし生後4カ月で14〜15時間、生後6〜8カ月で13〜14時間と減少します。
 このあいだ、ねむりのパターンも変化するのです。1回に眠りつづけることのできる時間も、しだいに長くなり、生後1カ月半の赤ちゃんでは、5〜6時間、生後4カ月になると8〜9時間にもたっします。そして、生後3〜4カ月のあいだに、よるのねむりとひるねにわけられていくのです。
 新生児に重要なことは、子宮内で母親の影響を強くうけた生体リズムは、睡眠のパターンもふくまれますが、分娩という過程でいちど中断されて、それがふたたび確立されることなのです。この出生後の生体リズムは、ほんらい生まれながらのものが中心ですが、母親の生活リズムにとうぜん影響をうけるようになります。
 さいきん、こどもの睡眠時間が短かくなってきているという報告もありますが、それはおとな一般の生活のパターンの影響によるものであるかも知れません。もちろん、一般にこどもが早熟になっているので、それによる可能性も否定できませんが。

赤ちゃんのねむりのパターン

 われわれは、睡眠には深いねむりと浅いねむりの2つがあることを、経験によって知っています。睡眠中の意識や活動が減退し、低下した状態の強さ、すなわち簡単に目をさますことができるか否かでわけているのです。
 しかし、さいきんの脳波による研究によって、睡眠のタイプにかんする考え方は大きくかわりました。睡眠中にみられる眼球の動き、呼吸、心拍のリズムの乱れ、顔の筋肉の緊張の変化、体動、体温、その他の体の機能の変化と睡眠中の脳波を対応させてみますと、おとなでは睡眠に2つのはっきりしたパターンがあることがわかったのです。すなわち、レム睡眠とノン・レム睡眠(注1)なのです。
 さらに、生まれたばかりの赤ちゃんでは、他のどれにも分類されないパターンの睡眠があることが明らかになったのです。もちろん、第3のねむりのパターンは、生後間もなく消えていくものですが。
 レム睡眠は動睡眠とよばれるものです。赤ちゃんは軽く目をあけ、静かにしていますが、ときに体をかなりはげしく動かしたり、体をゆっくりねじったりします。また、顔の筋肉の収縮により、笑い顔、しかめつら、呼啜運動などがみられるのです。眼球をはやく動かすなどの特有な運動をしめすのです(おとなではとくにその傾向が強い)。さらに、ときとして、心拍や呼吸のリズムが乱れます。赤ちゃんや、幼児や、学童で、ふとんをけとばすとか、朝おきたら逆になっているとかいうできごとがみられますが、それはレム睡眠の結果なのです。
 また、レム睡眠は、夢にも関係していると考えられています。レム睡眠の脳波をみると、目をさましているときの状態にちかいのであって、それは脳の一部がはたらいていることを意味します。
 ノン・レム睡眠は、いわゆる静睡眠とよばれるタイプです。すなわち、赤ちゃんは目をとじ、体をうごかすことなく、すやすやとねむっている平穏なねむりなのです。もちろん、目も動かさないし、呼吸や心拍のリズムにも狂いがありません。
 前に申し上げた生まれて間もない赤ちゃんにみられる、レムまたはノン・レムのいずれにも分類することのできない第3の睡眠は、ねむりにはいるときに、これに特有な脳波のパターンがみられます。いまだ十分に大脳が成熟していないための状態にみられるねむりであって、おなかの中にいるときの胎児のねむりの名ごりと考えられているのです。
 一般に、おとなの夜のねむりでは、ノン・レム睡眠からはじまって、ねむりにはいって70〜100分後にレム睡眠にかわります。それからあとは90分位の間隔で夜のあいだ中、ノン・レム→レム睡眠のサイクルが反復されるものです。
 新生児では、レム、ノン・レム睡眠のサイクルが不規則ですが、レム睡眠が1日の約50パーセント、ノン・レム睡眠が約40パーセントをしめます。生後3カ月の赤ちゃんになると、前者が約40パーセント、後者が約50パーセントと逆転し、8カ月で約25パーセント、約55パーセントとなり、ノン・レム睡眠の優位がますます強くなるのです。おとなではノン・レム睡眠が1日の約20パーセント、レム睡眠が約10パーセントなのです。



(注1)レム睡眠・ノンレム睡眠
レムとはRapid Eye Movmentの略で、ノンレムとはNon-REMである。睡眠の2つのパターン。


このシリーズは「こどもは未来である」(小林登著・メディサイエンス社1981年発行)の原稿を加筆、修正したものです。






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