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小林登文庫


新・こどもは未来である
掲載:2000/09/14

<わが子を守る母親の免疫抗体−1>

 体をばい菌から守る免疫機能(注1)は生まれたばかりの赤ちゃんでは、充分に発達していません。しかし、人類進化の過程で獲得した免疫機能の原型だけは、免疫不全症のような病気でないかぎり、普通もって生まれてきているのです。
 それは、生まれたばかりの子どもがいろいろな抗原刺激(注2)をうけると、血清中に抗体価があがるのに、3週間から6週間も時間がかかることからわかります。おとなならば1〜2週間で十分に抗体価はあがるものなのです。
 しかし、生後免疫機能は急速に発展し、子どもは普通の生活の場では問題なく未来に向けて生きてゆくことが出来るようになるものなのです。未来のためにも、生まれた子どもは、まず新生児期を生きのびなければなりません。感染症(注3)に負けてはいられないのです。

高い抗体価の抗体をわが子にわたす

自然は新生児が周生期(出生前後のしばらくの間)を、感染症にかかることなく生きのびてゆくために、いくつかの手だてを用意しています。
 その第1は、子どもの免疫機能が十分に発達して、ひとりでてぎわよく抗体をつくれるようになるまで、感染から守るために、母親はまず子宮中にいるうちに、自分の免疫抗体(注4)を十分にわが子にあたえているのです。すなわち抗体の経胎盤移行という現象です。移行する抗体はIgG(注5)であって、免疫グロブリン(Ig)の中では分子量の小さいものなのです。したがって移行した抗体は、赤ちゃんの血管の内外、さらに組織間隙にまでと、体のすみずみにしみわたって、その目的を果たします。
 母親がそれまでの人生で体験した感染因子のすべてにたいする抗体、特に分娩の直前に体験した感染したばい菌やウイルスにたいしては、高い抗体価を、ちゃんとわが子にわたしているのです。



(注1)免疫機能
人間が体に侵入してきたものを「自己」のものであるかないかを区別して、「非自己」である微生物ばかりでなく、移植されたものに対しても、抗体をつくったり、リンパ球などの白血球細胞によって反応し、それを除去したり、処理したりする機能。
(注2)抗原刺激
抗原(性物質)で生体の免疫系を刺激すること。抗原とは、抗体や細胞による免疫反応をおこさせる物質である。細菌・ウイルス・あるいは異種のたんぱくは抗原となり得る。
(注3)感染症
身体のどこかに感染が起こると、宿主はそれぞれの病原体に対して特有の反応を示し、発熱とか痛みとか反応が病的な程度に達して、臨床症状が現れた状態を感染症という。
(注4)免疫抗体 immune antibody
免疫によって生ずる抗体で、その抗原(免疫原)と特異的に反応することが出来る血清中の免疫グロブリンである、別名液性抗体という。細胞性免疫に関するリンパ球表面にはその抗体が付着している場合がある。
(注5)IgG immunoglobulin G
分子量15万の免疫グロブリンで、全免疫グロブリンの約8割以上を占める。細菌やその毒素、さらにはウィルスと結びついて、中和、沈降、凝集反応などに関与する。


このシリーズは「こどもは未来である」(小林登著・メディサイエンス社1981年発行)の原稿を加筆、修正したものです。





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