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小林登文庫


新・こどもは未来である
掲載:2000/12/22

<父親の出番−2>

父親が父親になるために

 父親は、母親の子どもにたいする育児行動を、どちらかといえば、大局的にみる立場が重要のようです。特に、はじめての母親にとって育児は試行錯誤のくりかえしなのですから、それにたいしていろいろと考えて適切な判断と援助をしなければなりません。そのためにも、母と子の関係とおなじように父と子の関係を乳児期に確立する必要があるのです。
 ひとつの生命が誕生して最初にであうのが母親であり、同時に医療関係者であり、そのつぎに父親という順に一応はなるでしょう。生後1年、とくに生後間もないあいだ、もっとも接触の多いのが母親であって、多くのばあい、父親がその中にわってはいる機会は少ないのが実情です。
 しかし、欧米の小児科医は、この10年程前から父親と子どもの関係をできるだけ早く確立するため、可能なかぎり、父親も母親とおなじように子どもと接触することを期待し実行させています。すなわち、分娩後できるだけ早い機会に、父親も赤ちゃんをだくことが重要なのです。
 母と子の人間関係の確立、母子相互作用についてはまえにものべましたが、父親についてもおなじことがいえることが明らかになってきました。
 生後2日から4日の赤ちゃんと、母親あるいは父親を病院の部屋でいっしょにさせる、あるいは父親・母親の両者と赤ちゃんを病院の部屋でいっしょにして調べた研究がありますが、その結果は多くのことを教えています。
 父親だけ、あるいは母親だけと赤ちゃんをいっしょにしておいたのでは、おたがいにあまり差はないのです。しかし、母親と父親と赤ちゃんと3人をいっしょにしておくと、大きなちがいが出てきたのです。母親よりはるかに多くの機会、長い時間にわたって、父親は赤ちゃんをだくようになるのです。赤ちゃんにたいする話しかけも、父親のほうが多く、手で赤ちゃんをふれるのも父親のほうが多いのです。母親は、産後の疲れが関係しているのかも知れません。しかし、父親が赤ちゃんをだくという行動は、話しかける行動ほど母親とちがいはないのです。逆に赤ちゃんにほほえみかけるのは、面白いことに母親より少ないのだそうです。
 このことは、母親・父親と子どもの3人が同時に存在するときには、父親は重要な役をはたすことを意味します。そして、3人の相互作用の中で、母親と子どもの相互作用はおさえられるようです。
 さらに興味あることは、陣痛から分娩にたちあった父親は、父・母・子の相互作用で、父親優位になって、父子結合(愛着)が強くなるというのです。
 もちろん、これはアメリカの研究であって、日本の父親のではありません。しかし重要なことは、世の中で一般にいわれている、あるいは考えられているのとは全く逆の現象がみられる事実なのです。

社会との橋わたし

 言語が発達し、保育園・幼稚園などで集団生活がはじまるとき、子どもは社会的に大きく成長します。そして、あそびの中にみられる身体的ならびに知的な行動も活発になります。そんな年齢になれば、父親の出番は違った意味で大きくなるのです。
言葉の発達ばかりでなく、人間関係という立場でみても、生まれて円熟した母子関係で乳児期を終わり、幼児期にはいり、人間関係の場が家庭・幼稚園と拡大され、そしていよいよ学校にはいった時点になれば、友人関係ばかりでなく教師との関係の中で、教育という意味でも父親の出番はさらに大きくなります。
さらに青年期における父親の役割は重要でしょう。その期間には、社会のしきたり、人生の意義などについて、子どもの問いかけに対してみずからの体験をとおしてこたえてあげなければなりません。
母親と父親の、子どもの未来にたいしてはたす役割は、そのそれぞれの家庭によってことなりますが、やはり子どもが社会にむけて目をひらくのに、父親のはたす役割は大きいのではないでしょうか。しかし、その基盤には、健全な父子関係、それによって育つ心の絆がなければなりませんし、そのためにも乳児期に、父と子の接触が多くもたれることが重要なのです。


このシリーズは「こどもは未来である」(小林登著・メディサイエンス社1981年発行)の原稿を加筆、修正したものです。





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