トップページ サイトマップ お問い合わせ
研究室 図書館 会議室 イベント情報 リンク集 運営事務局

 トップ 図書館 小論・講演選集 子育て小論講演〜99トップ


小林 登文庫
小 論 ・ 講 演 選 集


子育てに関する小論・講演(1999年以前に発表)

「育つ」「育てる」の記号学
1994 小児科診療 第57巻 4号

 子どもは、生物学的存在として生れ、社会的存在として育てられ、育つ。子どもにとって最も基本的な、この人間としてのいとなみは、多彩な側面をもっているが、われわれは、そのそれぞれに対して多くの言葉を用いて表現し、記録しているのである。
 子どもの「育つ」という生物学的な現象には、「成長」「生長」「発達」「成熟」「発育」「成育」「生育」などの用語があり、“育てる”という社会的、人間的な行動に対しては、「育児」「保育」「哺育」などがある。
 子どもに関わる専門家は、小児科学ばかりでなく、発達心理学・教育学・保育学などに関係して多様である。これらの用語は、専門家それぞれの考えによって異なった意味をもつ。そのうえ、対応する外国語となると、さらに問題がある。「育つ」「育てる」には、それだけ社会的・文化的な側面があるからであろう。
 筆者は、上述の用語を次のように考えている。成長:育って大きくなること。生長:生まれ育つことであり、生体量の増加、育つことの形態的な側面を捉えている。これに対して、発達:育って完全な生体になること、生命活動を環境に適応できるようになることであり、機能的な側面を捉えている。成熟:発達と同じように用いられているが、小児科学では性機能とか骨に限って用いている。
 「発育」「成育」「生育」は、成長と発達の両面を包括的に捉える用語であるが、「成育」は成育限界という用語があるように、「育てる」ことも加味されているようである。「生育」は、どちらかというと植物に対して用いるのである。
 英語では「成長」「生長」は“growth”、「発達」は“development”、そして「成熟」は“maturation”である。しかし「発育」「成育」に当る英語は見当たらない。教科書によく書かれている“growth and development”がそれに当たろう。
 「育てる」というと、小児科医はただちに「育児」という言葉を出すが、高校の教科書には「保育」という言葉はあってもそれはないようである。少なくとも筆者がみたことはない。「育児」は子育ての人間的ないとなみそのものをさし、「保育」は保育園・集団保育のように、社会的なニュアンスが入ると筆者は考えている。英語で育児の「育てる」は“care”であり、保育の「育てる」は“nurture”であり、“rear”である。はぐくみ育てるのが「哺育」であるが、英語では“nurture”に当る。“care”には、気にかけるという意の心が入っている。
 豊かな社会で子ども達は多彩な問題に遭遇している。これらの問題解決には、子どもに関わる専門家の協力、すなわち学際性が要求されている。同じ土俵で考え論じ、解決策を立てるには、「育つ」「育てる」の記号学の理念が確立され、用語を標準化した術語として整理することから始めなければならない。


Copyright (c) 1996-, Child Research Net, All rights reserved.
このホームページに掲載のイラスト・写真・音声・文章・その他の
コンテンツの無断転載を禁じます。

利用規約 プライバシーポリシー お問い合わせ
チャイルド・リサーチ・ネット(CRN)は、
ベネッセ教育総合研究所の支援のもと運営されています。
 
キーワード: 「育つ」「育てる」 掲載: 2004/12/17