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小林 登文庫
小 論 ・ 講 演 選 集


子育てに関する小論・講演(2000〜2004年発表)

子ども学のすすめ
2004 チャイルドリサーチネット

 人間は、子どもを生み育てながら、世代を繰り返し生活してきた。したがって、子どもをどう捉えて、どのように扱ってきたかは、当然の事ながら時代と共に変わってくる。2000年には、新しいミレニアム(千年紀)に入ると共に、新しい世紀(21世紀)を迎えた。そのような時の流れの中で、「子ども学」は生まれたのである。
 ミレニアムは、キリストの復活(再来)に、1000年掛かるとして、西暦1000年頃から言われた時代の計り方で、主に考古学で用いられている。神話時代を終わり、エジプト・ギリシャ文明が始まって、キリスト誕生から第1のミレニアム(CO-1000)が始まり、世界宗教が体系付けられ、都市国家が組織化されて、領土を持つ国家となった。続いて、ルネッサンスを中心に文化が文明化され、学問が体系付けられる第2のミレニアム(1000−2000)に入ったのである。勿論、その中に大航海時代があり、ヨーロッパ諸国の植民地獲得が進み、国家間の利害も複雑になり、戦争技術の近代化と共に世界大戦が2つも起こり、戦争も地球規模の時代になった。そして第3のミレニアムが、アフガニスタン・イラクのような中近東の新しい形の戦争によって始まったと言えよう。

 第2のミレニアムの終わりの20世紀から、第3のミレニアムと共に新しい21世紀に入ったが、その20世紀はどの様な時代であっただろうか。その前半は2つの世界大戦で終わり、その後も、領土・資源・宗教を巡る紛争は中近東、アフリカなどで続いたが、多くの国では平和は続き、科学・技術の進歩のおかげで、少なくともわが国を含めて、先進国は豊かな社会を築く事が出来た。
 その科学・技術は、デカルト(1596ー1650)の方法序説(1637)から始まる350年のカルテシアンの哲学によって支えられ、自他分離、そして要素還元論によって、物理学・化学などの自然科学が体系付けられ、それが工学などの実践に応用されるようになり、豊かさの基盤ができたのである。
 しかし、20世紀末になって、科学・技術の行き詰まりも現れて来た。自然や環境の汚染や破壊を見れば明らかであろう。それは、技術を使う人間の心も、豊かさ中心の考え方のために損なわれたからであろう。極言すれば、自他分離に毒されたためとも言える。
 第2のミレニアムの中で、20世紀に近づくにつれ、人間の尊厳を高める思想と共に、子どもの捉え方も変わり、人間として子どももより高く認めようとする動きが出た。その様な動きの中、スウェーデンのエレン・ケイは20世紀冒頭、1900年に、「児童の世紀」を出版し、20世紀を「子どもの世紀」にしようと提案したが、起こった事を見れば、20世紀は「子どもの世紀」になり得なかった事は明らかである。しかし、1979年の女性権利に続いて、1989年の国連子ども権利条約が成立した事だけは大きな意義を持つ。ある意味で、マグナカ・カルタに始まる、人権の歴史800年の最後のまとめが出来た事になる。
 こういった人間の歴史の中で、世界、さらには国内の身近な諸問題と対決する中で、自他分離/要素還元論だけでは充分でない事を悟り、それを否定する事なく、取り込みのりこえる新しい人間の捉え方を、われわれが探り始めた事は当然の帰着であろう。それは、人間が社会的側面と生物学的側面を併せ持っているからである。
 その結果現れたのは、20世紀に始まる人間生物学・人間科学という学際的・包括的な考え方であり、文理融合科学的な発想であって、その中で子どもの人間科学として、「子ども学」Child Scienceが第3の新しいミレニアムの冒頭、21世紀に現れたといえよう。こういった「子ども学」の必要性は、世界の子ども達の問題を見れば、誰方も理解出来よう。
 現在、「子ども学」に求められているものは、大きく3つに整理できる。第1は、子どもの権利条約後の新しい児童観の確立を含め、子どもをどの様に捉えるかなど、哲学・論理学の問題を明らかにする事、第2は現在社会に起こっている、いわゆる子どもの問題"Children's Issues"の原因を明らかにし、どの様に対応するか、さらにはどう予防するかという問題である。神戸や長崎で起こった子どもの問題はその代表である。そして、第3は、子どもに関わる「モノ」ばかりでなく「コト」を、子どもの目線に立って、どうデザイン(child care design)するかであろう。例えば、都市から、学校・保育園などのデザインであり、子どもに関係する制度などのデザインである。
 このいずれのテーマも、子どもに関心を持つ研究者が集まって話し合い、お互いの情報交換をする場が必要であり、それによって、その理論体系も確立しなければならない。現在の社会では、幸い情報交換のインフラストラクチャーは、従来になく発展し、この様な学際的な学術分野を支える事も可能にしている。
 わが国以外で、子ども学的発想が育っている国は少なくない。北欧の国々はその代表であり、特にノルウェーは、国立子ども学研究所とでも呼ぶべき施設を持っている。また、子どもを包括的に捉える雑誌もいくつか発刊されている。
 わが国でも「子ども学」を冠した研究施設・講座・学科などが各地の大学にでき、昨年11月には「日本子ども学会」も設立され、「子ども学」が発展する基盤も徐々に形成されつつある。私も、その様な考えで、「サイバー子ども研究所」Child Research Netを1996年に立ち上げたのである。
 子どもに関心を持つ研究者は、是非「日本子ども学会」に参加して頂きたい。それぞれが自ら持っている学術的背景をより高いものに役立てる研究成果を、全く関係ない分野の方々から受け取って頂き、21世紀こそ「子どもの世紀」にする基盤を作り上げたいものである。


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キーワード: 子どもの権利 チャイルドケアデザイン 掲載: 2004/06/04