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小林 登文庫
小 論 ・ 講 演 選 集


その他子どもに関する小論・講演(1999年以前に発表)

子ども学のすすめ
1999 小児科診療 Vol.62 No.2

 20世紀末になって、わが国の社会・経済・政治のあり方が想像もしなかった方向に揺れ動き、その解決策も見出すことが出来ないまま、新しい年を迎えた。もちろん、それはわが国だけの問題でなく、地球規模で考えなければならないものである。
 自然科学の分野でも同じことが言えよう。デカルト以来の自他分離の考え方の中で育った要素還元論的な立場のみでは、多くの問題が解決出来ないことが明らかになっている。むしろ、「関係」とか「場」を科学的にどう捉えるとか、「複雑系」とか「ニューサイエンス」、「ヒューマンサイエンス」とかの新しい流れも出てきている。自他非分離、そして要素還元論を取り込み乗越える、新しい統合論・全体論への方向に、いろいろな局面でのパラダイムの転換が求められているのである。
 現在の子どもの問題を見ても同じことが言える。心の問題、特に具体的には問題行動である。「不登校/登校拒否」、「いじめ」からはじまって「ムカつく/キレる」、「援助交際」、そして「自殺/他殺」まで、問題は極めて多様である。こういった子ども達のほとんどは、心身症などいろいろなかたちで小児医療の現場にも現れているのである。
 しかし、小児科医・児童精神科医のみでは充分に解決出来るとは言えない。こういった子ども達に関わるカウンセラー・心理の専門の者だけ、学校の先生だけでも無理ではなかろうか。むしろ、子どものこういった問題に関心を持つ専門のチームを組んで、親や、年齢によっては子どもも交えて話し合う必要がある。また、それぞれの事例を検討し、いろいろな解釈も出てくると思うが、お互いに話し合う場も少ないと言える。ただ、それぞれの専門学会で発表されているだけの場合が多い。それは、学問として共に対議する共通理念がないからではなかろうか。
 それぞれの専門家が話し合い、研究するのに必要な新しい理念として「子ども学」という考え方ができよう。女性学に対比することもできるが、子どもの問題を広く学際的にみる立場である。その基盤にはもちろん、小児科学・小児保健学・心理学・教育学などがあるが、社会学・文化人類学なども必要であろう。そして、自然科学系と人文科学系の考え方を統合する柱として、システム・情報論的な理念、さらには生態学的な理念が必要に思える。
 すでに「子ども学」をタイトルにした図書・雑誌が出始め、そういった理念が少なくとも必要と考え始めている人がいることは事実である。北海道では、子ども問題に関心を持つ医療・保健・教育・心理・福祉などの専門家によって、「子ども学」のタイトルをつけた研究会も始まっている。また、「診断と治療社」では、「チャイルドヘルス」という月刊誌を出されたが、これもある意味では「子ども学」の方向へ向かったものと考えられ、関心ある人にとっては喜ばしいことである。ヘルスという名前は、医学・保健学的であるが、是非、子どものより良い心と体の健康問題をいろいろな立場で考える人々の力を結集して、この月刊誌を育て、21世紀の子ども達の全人的幸福の基盤を高めていただきたい。


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キーワード: 子どもの問題 掲載: 2005/08/12