東京学芸大学海外子女教育センター教授 佐藤郡衛
在日外国人の増加、民族・出身国の多様化、そして海外帰国生の増加に伴い、日本の学校の多民族化・多文化化も進んできている。しかし多くの日本の学校では、日本の文化基準で子どもを日本社会へ同化させようとする「単一文化視点」か、「○○人はこうだ」という文化の枠をあらかじめ固定し、その枠の中で子どもを理解しようとする「比較文化的視点」にとどまっていると佐藤氏は指摘する。とくに日本の学校には「帰国生だから英語が得意」「外国人の子どもは学習意欲がない」といった特有の先入観があると氏は言う。「教師は理念的な帰国生(クロスカルチャーを生きる子ども)像をあらかじめ設定し、その枠組のもとで現実の子どもとの関係性を作り上げる例が多い。また、現実の子どもの行動の文脈から切り離された『特性』(異文化性)を過度に強調し、その『特性』を伸長することが課題とされ、一人ひとりの個性豊かで多様な生活背景は背後に退くことになってしまう」。 |
帰国子女ジャーナリスト 古家 淳
古家氏がこだわり続けるのは「ワタクシゴト」のスタンスである。「日本語に『ワタクシゴトで恐縮ですが』というセリフがある。だが僕には、まずなんでワタクシゴトだと恐縮しなければならないのかが分からない。いいじゃないか、人間にとって自分がどのような暮らしをしていて、何を感じ、何を考えているかということほど、大事なことはないじゃないかと思うのである」。氏自身、小学校4年生から中学卒業までをメキシコで過ごした「帰国子女」である。現在、帰国子女同士をつなぐミニコミ雑誌『私情つうしん』を主宰する氏にとって、「ワタクシ」とは最も小さく最も大切な文化の単位なのである。 |
TVプロデューサー 西山仁紫
1993年秋、日本とアメリカを行き来することになった二人の少女を追ったドキュメンタリー番組「ふたりの転校生」(フジテレビ)が放送された。ニューヨーク在勤の西山氏はこの番組のプロデューサーであり、取材を通して子どもたちの適応のプロセスをみつめてきた。番組に登場するのは、日本からアメリカに移り生活することになった「サヤミ」と、親の海外勤務が終わりアメリカから日本に帰国することになった「サチ」という、対称的な境遇の少女たち。ともに小学4年生、活発で成績も優秀だ。氏は「この二人の目をフィルターにして、日本や日本人の抱えるさまざまな問題を浮き彫りにすると同時に、初等教育や周りの環境がいかに子どもの人格形成に影響を与えるかを考えたかった」と述懐する。 |
多文化間ソーシャルワーカー 秋武邦佳
山形県の「国際化」は、80年代後半に「行政主導の後継者対策」による国際結婚として始まった。県内の約3700人の外国人のうち3分の1が日本人男性と結婚し、古い家制度の「嫁」として暮らす外国人女性であるという。彼女たちからの相談を受けたり医療・育児についての情報提供などを行うエスニック・ソーシャルワーカーの秋武氏は、「山形県の『異文化』は外国出身の女性たちとその子どもによってもたらされつつある。他方で、彼女たちに期待されているのは異国の文化をもたらすことではなく、日本人の後継者を残すことである」と言う。 |