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Vol. 14, No. 1, January 1998
1. 子どもの本当の能力を見いだそう

子どもの本当の能力を見いだそう

ロバート・スターンバーグ博士(エール大学心理学・教育学教授)

 ジャマイカへの旅の間、比較的貧しい地域の小学校をいくつか訪ねた。そこの学校の配置はちょっと変わっていて、大きな一部屋が教室となっていた。

 先生と生徒が教室の中にいくつか固まりになっているが、それぞれのクラスの間に仕切りがないことから、自分のクラスの授業だけでなく、ほかのクラスの話も聞ける。クラスの隅や後ろに座ろうものなら、自分のクラスの先生の話より、隣りのクラスの先生の話の方がよく聞こえることになってしまう。実は、そういう子ほど、自分のクラスの先生の話を集中して聞こうとするはずなのである。

 アルフレッド・ビネー博士は、一世紀も前にある問題について考えていた。その問題とは、学力を予想するためのテストとはどのようなものか、ということである。

 ジャマイカの環境を考えると、一番役立ちそうなテストは、ビネーが考えたような語学力や数学力ではなく、集中して聞く力と注意して聞き分けることのできる力をみるテストだと思われた。なぜならジャマイカでは、集中して聞く力は先生の話を理解するためのものであり、注意して聞き分ける力は先生の声を聞き分けるためのものであるからである。

 このテストでは、おそらく同時に子どもの学力も予想できる。なぜなら、授業中には口頭試験もあるからだ。

 米国などのほかの国も、実は知らないうちに同じような状況になっているのではないか。ほとんどの学校では二つの能力が重要となっている。一つは記憶力であり、もう一つは分析力である(分析力の中には、抽象的概念を評価したり比較したりすることが含まれている)。

 能力テストは、そのような技能をどれくらい持っているかを測り、学力テストは、その能力がうまく使われているかを測るものである。能力テストで良い点をとる子どもほど、学校でよい成績をとる傾向がある。



現実では何が一番重要か?

 このような能力は学校では重要視されているが、人生では必ずしも一番重要とはされていないことが問題である。仕事上で、本を暗記させられたり幾何の理論を使ったり、単語テストで覚えた難しい言葉を使うことがそんなにあるだろうか。仕事では、暗記や分析力もある程度必要だが、ほかの能力も必要である。

 リチャード・ハーンスタインやチャールズ・マーレー(The Bell Curveの著者)ほど保守的な考えをしている人たちでさえ、このようなテストは子どもの成功の1割しか説明しきれないことを認めている。残りの9割はどのように説明したらよいのであろうか。



成功のための能力(Successful Intelligence)

 私は、著書『成功のための能力』(Successful Intelligence Simon&Schuster, 1996)のなかで、日常生活で必要な能力はテストで測られる能力より広い範囲に及ぶと述べた。従来のテストの一番の問題点は、特殊な能力(暗記力と分析力)を持つ子どもたちは飛び抜けて目立たせるが、想像力や実践力を持っている子どもたちを排除してしまうということである。

 ほかの能力を持つ子どもは、低学年で、優秀な子どものためのクラスから外される危険性があり、自分たちが持っている能力を発揮する機会が与えられない。昔からのテストは、このような子どもを排除することだけでなく、暗記力と分析力だけの子どもだけに多大な機会を与えてしまう。

 このような状況を改善するために、私とエール大学の同僚は、STAT(Sternberg Triarchic Abilities Test)というテストを開発した。これは研究のためのテストであり、高校生レベル(約15〜18歳)と4年生レベル(約9〜10歳)の2つのレベルが用意されている。このテストでは、昔ながらの能力を測りながら、ほかの能力も測ることができる。

 テストの3分の1では、昔のテストと同じく暗記力や分析力を測り、次の3分の1では、想像的な思考に使う能力や新奇な思考ができる能力を測り、最後の3分の1では、日常生活に必要な実践的能力を測る。

 この3つの能力は、4つの異なる方法で測定されている。それは(1)言語、(2)計算、(3)多肢選択式、(4)論文である。多肢選択式の試験は客観的に採点され、論文は熟練の試験官によって、綴りや文法の正確さは考慮に入れず、測られている能力のみに焦点をあてて主観的に採点される。

 目的は、子どもの全体的な能力像を把握することである。記憶力と分析力を測る部分は、これまでの試験によく似ており、文中の言葉の意味(言語)や、数列を完成させたり(計算)、類推法による問題(多肢選択)を解かせる。高校生レベルの分析論文は、学校に銃を持った警備員がいることの是非などを論じさせる。

 想像力のテストは、昔ながらのテストとは異なり、生徒に論理問題を解かせたり、新しい関数で数学の問題を解かせたり、不規則な数列を完成させたりする。高校生レベルの想像力を測る論文は、理想的学校像などを論じさせる。

 実践的セクションは、高校生や小学生が日常生活で経験するような問題を口頭で解決させる。また数学力を見るには、電車の時刻表やレシピに関する問題を解かせたり、地図を使ってルートを計画させたりして測る。高校生レベルの実践的論文は、学生が直面する問題を説明し、その解決法を3つ書かせる。

 このSTATは、統計的に有意であり予想に有効である。エール大学の夏期プログラムでの研究では、分析力、想像力、実践力はすべて、高校生レベルの心理学コースでの成績を予想できた。この研究で、最も上手に予想できたのは分析力であり、一番弱い要素は実践力であった。同じ研究を、デボラ・コエーティス博士がニューヨーク市立大学で行った。アフリカ系アメリカ人の低所得者を研究の対象としたところ、全く反対の結果がでてきた。それは、実践的力が最も強い要素であり、分析力が最も弱い要素であった。

 さらに、能力のパターンを上手に利用したプログラムをこなす学生の方が、能力とプログラムがかみ合っていない学生より成績が良いことがわかった。すなわち、その学生の強みを評価するクラスであれば、その学生は高いレベルで学ぶことができるというわけである。

 教育の改善のために、能力テストを変えるだけでなく、カリキュラムや学力テストも変えなければいけない。1つだけでなく3種類の能力すべてを強調することによって、現行のシステムで普通か普通以下とされる子どもたちについて、隠された能力が発揮されずに無駄になる危険性から救うことができる。我々は変化を起こすことができる。問題は意志がついてくるかどうか、である。




The Brown University Child and Adolescent Behavior Letter, January 1998
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Source; The Brown University, Adolescenet Behavior Letter.
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