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Vol. 18, No. 5, May 2002
1. 行動様式は徐々にできあがってくるもの。突然キレることはない。
2. 共同親権と単独親権

行動様式は徐々にできあがってくるもの。
突然キレることはない。


ルイス・P・リップシット


 バーモント州の十代の若者二人がダートマス大教授二人を惨殺した罪により最近有罪判決を受けたが、優等生一人を含むこの一見『正常な子どもたち』がそれまで激しい反社会的性質をみせることもなく、何故このような行動に出たかについて考えさせられた。

 同じように、若者が盗んだ飛行機を操縦してタンパのオフィスビルに故意に突っ込んだ事件について、友人や近所の人は、"彼はキレたに違いない"とか、彼が"ノイローゼ"だったに違いないと言っている。

 誰かが我々の予期に反する行動に出ると、我々の考えは二極化する。昨日彼女はオーケーだった。今日はそうじゃない―正常な人たちと異常な人たち、病気の人と健康な人。しかし人間の精神の仕組みはそういう風にはなっていない。心は突然キレないし、神経も急に壊れたりしない。ある人の行動が"その人らしくない"時によく使われる比喩はなんの説明にもならない。

 悲劇的で信じがたい行動が突然現れたようにみえても、その前には必然的に何年も続いていたプロセスがあったはずである。破壊的な行動を病的なものと見がちであるが―すなわち経験から来る原因よりも気質的原因を探そうとする。さらに人間の行動は、本来予期できないものだと、誤って考えがちである。

 シグモント・フロイトは1世紀前にこれらの問題を取り上げた。人間は往々にして一見病気のように見えることがあるが、実際には精神的な障害は学習経験が起因していると彼は言った。また全ての行動には原因があり、"偶発的"行動はないとも言った。

 行動には規則性があり、学習のプロセスがほとんどの行動のルーツだという多くの人たちの考えは、行動主義心理学者B.F.スキナー教授が考え出したものとされる。何故なら彼はフロイトと同じく経験が行動において演じる役割の重要性を主張したからである。スキナーは動物や人間の発達を決めるものは環境と経験であることが多いことを立証した。しかしフロイトや他の行動学者の間では、喜びや悲しみの背景は、経験が積み重なって生み出す驚くべき力の源であることが多いというのが主流の考えである。フロイトもスキナーも神経システムの重要さを否定していない。フロイトはもともと神経学者だが、すべての経験と過去の出来事の記憶、そしてこれらの記憶の結果は神経系統によって運ばれることを理解していた。

 現代の科学者は、行動上の出来事はすべての自然現象と同じように因果関係と発達の条件として理解できると確信している。人の行動はルールにのっとっている。それにも関わらず、知り合いの行動があまりにも期待に反するものだった場合、私達はこれを予知することができない。また専門家もこれをほとんど説明できない。

 自然の法則が物理学や化学の基礎を成立させるのと同様に、人間の行動にも規則性があり、それを説明する法則も存在する。それでなければ、我々は友人の行動を気味悪がるのがせいぜいだろう。なぜなら彼らが次の瞬間に何をするかは全く予想がつかないからである。人間の学習と行動の法則は―ニュートンの重力の法則やオームの電気回路の法則と同じように―常に法則があるのだ。これらに関する又その意味についての我々の知識は不完全であり、今後の発見を待たねばならないが、これは全ての科学に通じる真実である。

 過去100年の間に人類は初めて重力に辿りつき、何千トンもの乗物を空に飛ばせた。したがって悲劇的行動を予知できなかったのを、"事故"が避けられなかったせいにしてはならず、情報が不完全だったからだとすべきである。

 我々は、まわりにいる初めて罪を犯す者や潜在的に危険な出来事を予測する科学の進歩を歓迎する。残念なことだが、世界貿易センターのテロを真似してタンパのビルに飛行機で突っ込んだ若者を制止する機会を逸した。しかし危険な人間の憎むべき行動を予測し、これを制御することは、原則として可能であることを認めねばならない。これを信じるには努力を必要とする人もいるであろうが、行動心理学者や神経科学者の多くにとってはこれはさほど突飛な夢ではなくなった。

 神経系統には、怒り、害を与えること、衝動的に卑劣な犯行に走ること卑しむべき衝動などが生来備わっているわけではない。人間には危険に曝された生命を救ってくれる生物学的に役立つ強い防衛本能が備わっている。ひどい扱いを受けると、赤ん坊だってやり返す。幼児期から代表的な二つの重要な反応システムが現れ始める。一つは幼児期に大切で信頼できる人々を、他人との絶対的な愛情あふれる長続きする関係の実在として慕うこと、もう一つは自分に加えられる危害から身を守ることである。これらの基本的事項から、人々は非常に複雑で、芸術的とさえ言える反応パターンを学び、これによって後に屈辱、悲しみ、個人的な不満などの心理的痛みから身を守ることが出来る。

 人間の発達に関する学問は、長年にわたって無視されてきた結果いまだに成熟していない。しかしこれだけは知られていることがある。最初から無条件に愛してくれる人の手の中に生れてきて、個人の自我を認める社会へ迎えられた子どもたちは、重要な他者に愛着を覚え、他人に重大な危害を与えることなく自己の人格を守ることができるようになる。後年他人に残酷な仕打ちをしたり、沢山の人が働くビルに飛行機で突っ込んだりして、我々を驚かせるようなことはしないのだ。

* Lewis P. Lipsit: ブラウン大学名誉教授。1957年以来心理学・医科学・人間発達学科で教鞭をとり、ブラウン大学Child and Adolescent Behavior Letter創刊号から編集の任にあたった。


共同親権と単独親権

 2000件以上の離婚家庭での親権行使状況と200件以上の両親が揃っている家庭の状況を調べたメタアナリシスによると、親が離婚した子どもは単独親権よりも共同親権の場合のほうがよりよく育つようである。エイズ行政局・メリーランド州保健精神衛生局の研究者ロバート・ボウサーマン博士によると、両親が共同で親権をもつ子どもは単独親権の子どもより、行動・情動問題が少なく、自尊心が強く、家族関係もよく、学校の成績もよいことがわかった。共同親権のもとにある子どもは、両親のそろった家庭の子どもと同じように自らの状況に適応しているが、ボウサーマンによればこれは「おそらく共同親権では子どもと両親との間に継続したコンタクトの機会を提供しているからだろう」ということである。
[Journal of Family Psychology:2002年、16:91―102]



The Brown University Child and Adolescent Behavior Letter, May 2002
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Source: The Brown University Child and Adolescent Behavior Letter
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