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Vol. 21, No. 4, April 2005
1. 子どもの問題行動の効果的な対処法:具体的に!

子どもの問題行動の効果的な対処法:具体的に!

エンニオ・シパニ

 次のように、こうすればこうしていいよ、などと条件付けて教え込もうとするしつけに聞き覚えはないだろうか。

 「ビリー、今日のあなたの得点は5点満点の2点だったわ。朝食のあとで、お片づけをしてくれたのはよかったけれど、問題もあったでしょう。午前中の休み時間のあと来るのがおそかったわね。それにホアキンがあなたのことを大きな赤ちゃんと呼んだら、腕を叩いたでしょう。おこってもカッとならないの、いやなことを言われたら無視するようにすること。だから今日のお行儀の得点は2点なの。つまり今夜は早く寝なくてはいけないし、明日の晩の持越し点もないのよ。明日最低3点とれば、寝る時間はいつもと同じになるわ。」

 ビリーのような子どもが3点(またはそれ以上)を取ることは少なく、これは彼のような子どもに対する罰の与え方が効果的でないからだと思われる。望むような結果が効果的に得られない理由は、特定の行動(他の児童を叩くなど)とその結果(早く寝かされる)との関係をあいまいなままにし、明確にできていないからである。上記の例では、多くの行為が主観的に判断されているので、子どもはどの行為が罰の対象となったのかを理解できない。主観的な総合判断に基づいて結果を展開させるのは、効果的でないことが多い。

 私の臨床経験では、主観的判断をくだすよりは、たとえば盗みなどの特定の行動に目標を定めることが、新しい里親家庭での子どもの立場を危うくする問題行動をなくすのに最も重要である。以下はその実例である。

ロベルトのケース:「この子の盗みは親譲りなのよ!」

 私がかかわった里親家庭は、同じ母親の子ども数人を預かっていた。男の子の一人(ロベルト、当時9歳)にはいくつか問題があった。その上、新しい家庭に引き取られてから一年たったが彼には「良心」の芽生えが全くみられなかった。もっとも深刻な問題のひとつは、家族や学校のクラスメートからお金やその他いろいろなものを盗むことだった。

 これは明らかに幼いころに身についた問題行動だった。生みの母親は、子どもでも自分の食い扶持は自分で稼ぐべきだと考えていたので、その結果小さいときから万引きに手を染めることとなった。この子やきょうだいたちが、母親から引き離された理由がおわかりと思う。

 私が関わる前に、里親である父親はロベルトの盗癖をやめさせようといろいろ試みた。懇願してみたし、盗みが社会的に許されないことであることについて話をし、よく考えてみるように訴えた。また、他人の持物を盗むことについて、罪悪感や恥ずかしい気持ちが芽生えるように懸命に努力し、自宅謹慎などいろいろな方策を試みた。残念だが、そのどれひとつとして、盗みを止めさせることができなかったのである。

 ロベルトがこのままこの里親の家に留まれるかどうか、危うい状況となっていた。里親である父もその妻もロベルトをひき続き預かることについて、疑問を感じていたからだ。それに、他人の持物を自分のものにする子どもを里子にしたいと思う人がいるとは、私にも考えられなかった。

 そこで私の考えついた案は、フロリダ州立大学の研究者たちの考えを借りたもので(Switzer, Deal & Bailey, 1977)、盗みをモニターするため、家のなかの目立つ場所にいろいろなものを置くことだった。これを「もの置きテクニック」と名づけた。毎日、父親がお金を含むいくつかの物をきまった場所(ロベルトには知らせない)に置いた。こうすると、父親は通常のチェック手順に加えて、その何かを置いた場所をチェックし、盗みが行われたかどうかを手際よく調べることができる。

 計画を実施する前の晩に、ロベルトに対してこの計画が告げられた。一日の終りに置かれた品物すべてが元の場所にあり、他にも何も盗みがないとわかると、ロベルトは50セントをもらった。しかし何かがなくなっていると、次のような罰が与えられた。(1)盗んだものを返す、(2)その日の小遣いはもらえない、(3)盗んだものの価値の2倍にあたる罰金を払う。この計画には、盗んだ場合の結果と、盗まなかった場合の双方の結果が含まれていることに留意されたい。父親は、早く寝ること、という罰も加えたと思う。

 彼の盗みの頻度が少なくなったことは想像に難くない。数週間の内に、盗みはしなくなり、これは学校でも確認された。盗みをやめたことは、ロベルトと里親の関係に大きな影響を与えた。ロベルトの行動の変化が最もよく現れている出来事のひとつが、私がたまたまその家を訪問しているときに見られた。

 その週のはじめに、ロベルトは母親にお金を渡しながら、(そのわざと置かれたお金を)僕が見つけたのだけどお母さんがなくしたお金でしょう、と言ったのだった。母親は彼のことを本当に誇りに思った。過去からようやく抜け出したと思ったのだ。良心のある子になったのだった。ロベルトの従順さに欠ける性質に親としてどう対処すべきかを含めて、他の様々な行動対処のやり方がこの家族に教えられた。*

 約一年半後に、この家族が別の子どもを引き取ったことから、彼らと再び関わるようになった。私がロベルトに最後に会った後も、ロベルトには盗みに関する問題は一切なく、このプログラムもしばらく前に止めたとのことだった。ロベルトの盗癖をなくすことを目標にした治療は、結果に対する罰と盗まないことを強化する対策が効果を上げた。他の問題行動も、個々の行動に対して意味のある結果をもって対処したところ、成功した。

 ローマは一日にして成らず。長年続いたいくつもの行動を止めさせるには、同様のアプローチが必要である。一つずつやっていくことだ。

 *マニュアル「子どもに言うことを聞かせるための6週間プログラム(英語)<PDF>」は、親のやり方を指導し、チェックシートで成果を確認しながら進めていくプログラムです。エンニオ・シパニ氏のご厚意により掲載いたします。


The Brown University Child and Adolescent Behavior Letter, April 2005
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