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Vol. 22, No. 3, March 2006
精神病を扱った映画が鬱の若者に与える影響

精神病を扱った映画が鬱の若者に与える影響

新しい調査結果により、精神の障害に苦しみながら助けを求められずにいる主人公を描いた映画は、鬱状態に陥っている、もしくは自殺したいという気持ちをもっている若者に長期的な影響を及ぼす恐れがあるということがわかった。研究者パトリック・E.ジェーミソンと彼の共同研究者達は、若者が精神病や自殺を図ろうとする人々を描いた映画を観ることにより、自殺願望のある若者は専門家による精神衛生治療の効果を疑っているという映画の描き方をそのまま受け止め、影響を受けてしまうのか否かを検証する調査をした。

調査は、2002年5月から6月までの間、アメリカ全土の家庭を対象とした電話アンケートによって行われた。8,517件の家庭を事前審査した結果、およそ19% (1,595件)の家庭に該当する対象者がいた。この調査結果は、電話アンケートに最後まで答えた900人の若者 (14歳から22歳) の回答に基づいている。

調査では、自殺傾向にある対象者を特定するために、Youth Risk Behavior Survey(青少年のリスク行動調査アンケート)から以下のような質問を抜粋し尋ねた―(1)最近、鬱状態もしくは自殺したいという気持ちになるか、(2)日常生活に支障をきたすほどの悲しみや絶望感が2週間以上続いているか、(3)真剣に自殺を考えたことがあるか、(4)具体的な自殺の方法を考えたことがあるか。また、対象者全員に、これまで「大うつ病」という言葉を聞いたことがあるかどうかを尋ね、もし「ある」場合、自分と同年代のうつ病の若者は、医師もしくはカウンセラーから助けてもらうことができると思うかを尋ねた。

アンケートでは、以下を含む18本の映画が挙げられた―(1)精神障害者および効果のない精神病の治療を扱った3本の映画、「ヴァージン・スーサイズ」(Virgin Suicides, 1999)、「17歳のカルテ」(Girl Interrupted, 1999)、「ビューティフル・マインド」(Beautiful Mind, 2001)、(2)精神病とは関連の無い自殺を描いていて、専門家による精神衛生の治療の効果に対する、精神的に傷つきやすい若者の考え方には影響を及ぼさないと思われる3本の映画、「アルマゲドン」 (Armageddon, 1998)、「グリーン・デスティニー」(Crouching Tiger Hidden Dragon, 2000)、「パトリオット」(The Patriot, 2000)、(3)対立のあげくの大量殺人と争いを描いた3本のスリラー、「パルプ・フィクション」(Pulp Fiction, 1994)、「マトリックス」(Matrix, 1999)、「ゲット・ショーティ」(Get Shorty, 1996)、(4)暴力シーンはあるが、それがユーモアとして扱われている3本のコメディ、「アメリカン・パイ」(American Pie, 1999)、「メリーに首ったけ (There’s Something about Mary, 1998)、「フォー・ウェディング」(Four Weddings and a Funeral, 1994)。また、傷つきやすい若者が映画を観る可能性を測るため、対象者が劇場やテレビ、DVD、ビデオで映画を観る頻度を尋ねた。

調査結果では、対象者の24%が、昨年一年間に少なくとも2週間、絶望感にとらわれた、もしくは自殺をしたいと思ったと報告した。また、64名 (7.1%)が自殺を考えたことがあり、31名 (3.4%)が実際に自殺の計画を立てたことがあると報告した。

精神的に傷つきやすい回答者は、鬱の治療効果をほとんど信じていなかった (p<0.001)。対象者のおよそ12%が、医者にかかっても効果がないと思っており、10%がカウンセラーに相談することも同様に効果がないと思っていた。この結果は、対象者が(1)の精神障害者を描いた映画を観た場合と強い関連性が見られたが、他のカテゴリーの映画の場合には関連性は無いようだ、とジェーミソンらは言う。

精神的に傷つきやすい対象者は、映画を見る回数が増えるほど、治療を信頼できないと答えている。最も頻繁に映画を観ている層では、精神障害者を描いた映画を全く見ていなかった層に比べて、治療に効果が無いと感じる割合が2倍以上だったとジェーミソンらは語っている。精神的に傷つきやすくない対象者の場合は、精神病の治療に対する考え方と映画を観たことに全く関連性はなかった。また、どのカテゴリーの映画についても性別と影響の受けやすさに明らかな関係性は何も見られなかった。

映画で自殺による死を描くことは、そのこと自体が本来受けられるはずの助けから、若者を遠ざけているとジェーミソンらは述べている。話の筋で、精神衛生の専門家の無能ぶりがあからさまに描かれている場合、その筋の発するメッセージにより助けを求めようとする可能性は明らかに減少する。若者が自殺をしたいという気持ちを持ったり鬱状態に陥ったりしたときに、適切な精神衛生の専門家から効果的な治療を求めるよう促すためには、多大な努力が必要であるのかもしれないとのことだ。


The Brown University Child and Adolescent Behavior Letter, February 2006
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