トップページ サイトマップ お問い合わせ
研究室 図書館 会議室 イベント情報 リンク集 運営事務局

 トップ 図書館 アメリカの「対立から学ぶ教育」
アメリカの「対立から学ぶ教育」
アメリカの「対立から学ぶ教育」〜誰もがピースメーカーになれる教育実践

第3章、第4章では、幼児期および小学生のCR教育に実際に携わっている方々へのインタビューを紹介する。

第3章 幼児期におけるCR教育
Susan Fountain
スーザン・ファウンテン
ニューヨークをベースに、CR教育インストラクター・コンサルタントとして活躍。現在はアメリカ・ユニセフ基金(www.unicefusa.org)のカリキュラム作成者、InterConnections21(http://ic21.org/)の教育プログラム・ディレクター、コロンビア大学ティーチャーズカレッジのICCCR(www.tc.edu/icccr/)の補助インストラクターなどを兼務。著書に『いっしょに学ぼう−学びかた・教えかたハンドブック』(ERIC,1994)など。
1.一般的な質問

1)いつ、どこで、どのように幼児期のCR教育にかかわり始めたのですか?

 教師としての最初の赴任先は小さな学校でしたが、「社会的感情的学習」(SEL = Social Emotional Learning)1に力を入れていました。当初はSELは独立したカリキュラムではなく、子どもたちといっしょにどのように生活し活動するかを考える取り組みの一環として用いられていました。もちろん、そのときはSELとは呼ばれていませんでした。

 次に教えたのは大学付属の幼稚園でした。そこでは子どもの「発達プログラム」を大きく展開していました。私は幼稚園で教えると同時に、大学の心理学のコースでも教えました。その大学は「幼児期の問題解決」2 というプログラムを開発、実施しており、私は、たった3歳の子どもが、そのプログラムで学んだ対立解決の技術をとても有効に使う様子に驚きました。そして、幼児期こそがこの技術を教えるのに適していると気づきました。なぜなら子どもたちはとても学ぶのが早いし、対立を解決しなければならない場面に遭遇した経験もほとんどないからです。幼児期の子どもたちはとてもオープンです。このような理由から、私は幼児期の子どもたちに教えることに一層関心を持ち始めました。

 1982−87年にスイス、ジュネーブの国連国際学校の幼稚園で教えました。その時は、私は幼児期の子どもたちにCR教育を教えることに強い関心を持っていました。そして、幼児期のCR教育のプログラム開発に関わってできたのが『Learning Together:Global Education 4-7』です。日本語にも訳され『いっしょに学ぼう』 というタイトルで出版されています。

2)幼児期のCR教育の目的は何だと思いますか?

 そうですね。いろいろなことが浮かんできますが、「子どもたちに自分には能力があること」、「自己効力感、つまり、集団のなかで問題を解決する力があることなどに気づかせること」、「子どもたちが自分の感情をコントロールしたり、コミュニケーションの力をのばすことを手助けすること」だと思います。子どもたちは自分以外の他者の存在に気づき始めます。そのことは、外に目を向けるプロセスでもあります。

 古典的なピアジェの理論によれば、そんなことは幼児期にはまだ起こらないといわれています。しかし、子どもたちのために社会的な交わりを設定し、他者の存在に気づく次のステップに進んでいくことができると考えます。他者についての気づきは、生物学的な側面だけでなく、社会的な要素も十分にあることが分かっています。それはとても重要です。

 平和を求める姿勢を身につけることはとても大切です。また、対立は普通に起こることであり、それが起こったときに、何かすることができることを認識するのには大きな意味があります。子どもたちは、自分でできることがあるということを、そしてそこには選択肢があることを知るべきです。

2.カリキュラム開発について

1)幼児期にCR教育を教える場合、何が一番重要でしょうか?

(『いっしょに学ぼう』で重視されていた能力は、協力、コミュニケーション、セルフ・エスティーム (自尊感情) でした。それは、今でも変わらないですか?)

 最近はセルフ・エスティームに関しては以前ほど重点を置かなくなりました。なぜなら、文化的に慎重に扱うべきテーマだからです。プログラムを開発した当時は、文化の多様性に対する経験があまりなかったのでこのことに気づきませんでした。セルフ・エスティームという概念は多分に西欧文化の発想だと思います。その代わり、特にこの年齢では、「似ているところと違うところ」、「私たちはどのように似ていて、どのように異なるか」というテーマを重視するようになりました。「違うということは良いことで、自然なこと、そしてとても楽しいことでもある」という概念を子どもたちに教えたいと思っています。
 さらに、以前より、対立解決や問題解決に関してより明確に表現するようになりました。『いっしょに学ぼう』3 の中にも書こうと思っていましたが、その時は幼児期の基礎的な技術を重視していたので入れませんでした。

 幼児期の子どもたちに必要なのは、どんな選択肢があるか、さまざまな選択肢を考えさせることだと思います。あることをしたら次にどんなことが起こるかについて考えさせることが重要です。これは幼児期の子どもにとって簡単なことではありません。もちろん個人差がありますが、幼児期の子どもたちが何もかもうまくやれるとは思っていません。しかし、ある行動が次に何をもたらすか考えるよう習慣づけることが必要です。子どもたちがこうしたことを考えるよう求められることはあまりないと思いますが、できると思います。たとえば、本を読むのを途中で止めて、次に何が起こるかを子どもたちに聞いてみます。ビデオを途中で止めて、同じように問いかけてみます。子どもたちに考えさせましょう。やがて子どもたちは、結果について予測し始めます。これはとても重要な技術です。

2)CR教育を始めるのに適した年齢はどのくらいでしょう?それはなぜですか?

 CR教育についてどう考えるか、によるでしょう。とても早い時期から子どもたちはお互いに対して関心を持ち始めます。10ヶ月の子どもでさえも他の子どもの髪の毛をひっぱることがあるので、教師は対立にどのように対処するかを教えることができます。声の調子を変えて、「お友達にやさしくしようね」と言うことで、教師自身がその場の雰囲気をつくることができます。それは子どもたちに大きなインパクトを与えます。子どもは対立や子どもたちに対する大人の態度や姿勢をすばやく読み取ります。何か悪いことをしたと、感じ取ることができます。言葉を覚えるずっと前から、態度によって子どもたちに意図を伝えることができます。教えようとしていることが何となくわかればいいのです。早くて3歳からCR教育を始めることはできると思います。4歳ではもう少し多くのことができるようになるでしょう。

3)幼児期のカリキュラム開発で何が楽しいですか?

 子どもや教師がどんどん理解して自分のものにしていく過程がおもしろいです。教師は、子どもたちと共に問題を解決していく方法を真剣に模索しています。通常、CR教育のプログラムは先生たちに受け入れられやすいです。CR教育は、問題解決だけでなく、協力やコミュニケーション、よりよい学習環境をつくることなどにも焦点をあてており、対立の予防薬となるからです。教員たちはこのようなアイディアに飛びついてきます。具体的な方法を知りたがっているのです。

 幼児教育の教師としての準備状況はさまざまです。デイ・ケアセンターに勤めている教師などはそのような研修の機会がないので、ワークショップによく参加してくれます。具体的なアイディアを教室に持って帰ろうと非常に意欲的です。私もとてもうれしいです。

4)カリキュラム開発で何が難しいですか?

 教員の準備状況がさまざまであることが難しい点でもあります。多くの教師にとって「対立は、大人が解決するものではなく、子どもの生活の一部であること」を理解することは難しいようです。たとえば、子どもが他の子どもをたたいた場合、その子がどんな気持ちからそのような行動をとってしまったのか言葉で表現することを学ぶチャンスとも言えます。しかし、教師は即座にそのような行動をやめさせようとします。その行動が広い意味で社会的感情的学習の一部であることを理解していないのです。専門的な研修や子どもの発達心理などを学習していない教師たちにどうCR教育を理解してもらうかが私にとって最大の課題です。

3.実践

1)CR教育の実践でもっとも楽しいことは何ですか?

 CR教育で学んだ技術を、数ヶ月のうちに子どもたちが自発的に使い始める姿を見ることです。一貫性を持って続けると1年以内に必ず変化が訪れます。一貫性がなにより重要です。幼稚園児の方が、小学生より学びが早いです。幼児期の子どもたちは新しいことに挑戦するのに躊躇しません。あってもほんの少しだけです。

2)CR教育の実践でもっとも難しいことは何ですか?

 難しいことのひとつは、個人的には、自分自身の文化的な思考に気づくことです。これはとても大切です。幼児期の子どもたちも自分の文化的な特性を教室に持ってくるからです。

 文化的な特性に敏感になるのは重要です。そして、どのような教え方をするか考える際には、最初に浮かぶアイディアが、あるグループの子どもたちやある個人に対しては最良ではない場合があることを理解していなければなりません。幼児期にすでに学びのスタイルに違いがあるのは明らかです。
 それぞれの子どもたちに合った学習スタイルを考えなければなりません。言語表現があまり得意でない子どももいますが、音楽や動き、楽器などを通して表現ができるのです。対立解決の方法の幅を広げることにもなります。
 CR教育に固執することなく、どうしたら全身を使ったよりホリスティックなアプローチを実施することができるかを考えるべきです。子どもの言葉に噛み砕きながら、子どもの発達段階に合わせてどんな実践が適切かを考えることが重要です。

4.インパクト

1)CRプログラムの結果、教室の雰囲気は変わりましたか?

 教室の雰囲気をどのようにはかるのかにもよりますが、このことについてプログラムを実施する前に教師と話し合っておくことが有効です。

 確かにプログラムを行った結果、教室に変化はありました。思いやりの気持ちは教室の雰囲気を変えます。子どもたちはサークルタイム(学活の時間)に問題を提示します。最初はサークルタイムを無視していた子どもたちも、年度が終わる頃には、問題や解決方法を考えるようになります。

 5歳児を教えていたときの経験ですが、年度の途中で、一人の情緒不安定な子どもが入ってきました。私はこの子どもが残りの子どもたちと教室の雰囲気に与える影響について心配しました。彼は、教室では、椅子でバリケードをつくり、机の下にうずくまったままでした。私はこの子どもはクラスに馴染むのは難しいと考えました。しかし、子どもたちは彼を受け入れ、「あれが彼のやりかたなんだよ」と言いました。子どもたちはその子どもを孤立させることも、レッテルをはって非難したりすることも、じろじろ見ることもありませんでした。その子が近くに寄って来たときに、自然に輪の中に招き入れました。子どもたちは、彼には時間が必要なだけで、問題ではないということを受け入れました。私は子どもたちが危険を感じるようなことはなかったと思います。なぜならクラスには安心できる雰囲気があったからです。
 自分の気持ちについて話すことで、より安心感のある雰囲気が生まれます。子どもたちは、彼はおびえていたからそのような行動をとっているのだと考えていました。そしてしばらくの後、クラスの雰囲気になれたその子はもう机の中に隠れることはなくなりました。彼はとても安心したようでした。その年の終わりまでに彼は幼稚園生活をのびのびと楽しむようになりました。

2)CRプログラムの結果、学校の雰囲気は変わりましたか?

 学校の雰囲気を変えるためには、学校全体での取り組みが必要です。教師一人で何かを変えることはできません。園長・校長が指揮を取り学校全体で行うことが不可欠です。以前は個々の教師や両親が学校の雰囲気を変えることができると思いましたが、少なくともこの国ではそれは不可能であることに気づきました。

3)CRプログラムの結果、あなた自身は変わりましたか?

 プログラムを実践すればするほど、その有効性を信じるようになりました。私自身がモデルにならなければならないことを一層実感しました。子どもたちにやってもらいたいと思っていることのモデルに自分がなるのです。でもそれをいつも続けるのは難しいですね。平静さを失って怒ったり声を上げたりすることもあります。私も人間ですから。しかし、そういうときこそ、子どもたちの声に耳を傾けるよい機会です。彼らは私が怒ったことで何か感じているはずだからです。そして、私は子どもたちに私が本当はどんな態度をとるべきだったか、子どもたちにどのようなことができたかを尋ねることができます。そうすることで、子どもたちも自分の気持ちを話してくれるでしょう。
 CR教育を子どもに教え始めるということは、自分自身の新しい生活の始まりでもあります。これは生涯かけて学ぶ長い道のりです。対立解決は旅のようなものです。私はこれからもこの旅を続けていくつもりです。


1 Social Emotional learning 他者に対する思いやりの気持ち、責任ある意思決定、肯定的な人間関係を作る力、など子どもの社会的感情的成長に必要な力を育成する学習活動
2 Early Childhood Problem Solving
3 『いっしょに学ぼう−学びかた・教えかたハンドブック』スーザン・ファウンテン著、国際理解教育資料情報センター、1994



ページトップへ

Copyright (c) 1996-, Child Research Net, All rights reserved.
このホームページに掲載のイラスト・写真・音声・文章・その他の
コンテンツの無断転載を禁じます。

利用規約 プライバシーポリシー お問い合わせ
ベネッセコーポレーション チャイルド・リサーチ・ネット(CRN)は、
(株) ベネッセホールディングスの支援のもと運営されています。