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シカゴ・ドゥーラ・プロジェクト:若い母親を励まし、教育し、エンパワーする
ハリス財団 フィリス・グリンク
イリノイ大学シカゴ校助教授 スーザン・アルトフェルド Ph.D.


1998年に雑誌「Zero to Three」4/5月号(Glink,1998)でも紹介されたように、シカゴ・ドゥーラ・プロジェクトは、Chicago Health Connection、Ounce of Prevention Fund、そして地域で活躍する3つの社会活動団体による実験的共同プロジェクトであり、妊娠や子育てを経験する10代の母親を対象に支援をおこなっている。厳しい選考基準により選ばれた女性たちは、準専門職のドゥーラとして訓練・雇用され、妊娠中のティーンエイジャーに妊娠期から産後まで一貫したサポートを提供する。ドゥーラの目標は、若い母親が生まれてくる赤ちゃんをどのように育て、助け、守っていくか学べるよう支援することである。ドゥーラの支援は「母親の成長を助ける作業」であるといわれるように、10代の少女たちの自己認識を変え、母親としての能力を目覚めさせていく。この報告書では、近い将来、規模を拡大したドゥーラ・プロジェクトで注目されるであろうこの点について検討する。

シカゴ・ドゥーラ・プロジェクトはこのパイロット研究の4年目、最終の年度にある(1999年現在)。3つのプロジェクト地域から集められたドゥーラが、このプロジェクトに向けたトレーニングのために集まり、訓練・評価を担当するスタッフと会ったのはそれほど昔のことではない。スタッフは、ドゥーラの責任や活動の内容をリスト化して書き出し、カテゴリー分けするなどの準備を進めていた。ドゥーラが妊娠、分娩、産後におこなう支援の内容が列挙されたこの長いリストを見ると、ドゥーラという仕事にはさまざまな技術が要求されるということがよく分かるだろう(ドゥーラの実践内容とは?を参照)。若い母親に寄り添い、教育し、成長させていくために必要なスキルはきわめて実用的なものから、より精神的なサポートまで、実に広範囲に及んでいる。プロジェクトの成功の可否は、ドゥーラがいかにして母親と強い信頼関係を築くことができるかという能力にかかっている。そして母親たちは、自分の子どもと信頼関係を築く方法を、ドゥーラが自分と信頼関係を築いていくプロセスから学ぶのである。

妊娠期間には、ドゥーラは母親との信頼関係を築くことに重点を置きながら、妊婦の身体の変化、出産準備、自分を誇りに思い大切にするための能力を高めることの重要性などを教え、お腹の中で大きくなっていく赤ちゃんとの関係を深められるよう母親をサポートする。分娩中は、産婦につきっきりでエモーショナルサポートを提供しつつ、産婦と家族が、複雑で不親切な医療制度をうまく通過できるよう確認する。出産後には、授乳、赤ちゃんの扱い方や絆の深め方、乳幼児の発育などについて指導、サポートをしながら、赤ちゃんと母親との健全な相互作用を促していくことに焦点を当てる。

ドゥーラは、10代の母親にサービスを提供するにあたり、事前に4ヶ月の集中トレーニングを受講する。さらに、継続教育のミーティングに毎月出席し、専門技術を磨いていく。最初のトレーニングでも、後の継続教育でも、ドゥーラたちは、母親が自分の子どもにどんなことを期待しているか、本人はどんな母親・女性になりたいのかということを理解しようと力を注ぐ

ドゥーラは、Ida Cardone, Linda Gilkerson, Nick Wechsler (Cardpme, Gilkerson, Wechsler, 1999) がOunce of Prevention Fund のために開発した教材「the Community Based Family Administered Neonatal Activities (FANA): Mothers, Fathers and Their Infants: Promoting Attachment and Mutual Growth (地域の家庭ではぐくむ新生児の行動:母親、父親、そして乳幼児−親子の絆を深め共に成長する」の使い方を学ぶ(Cardone, Gilkerson and Wechsler, 1999)。この教材は、母親としての新しい役割に取り組むのを支援するために、妊娠期から産褥期までを通して使われる(コミュニティベースFANAとは?を参照)。

妊娠中の母親は、同じように妊娠している仲間たちと出会うことによっても共に成長していく。あるドゥーラは、妊娠中のティーンのグループに、お腹のなかで大きくなっていく自分の赤ちゃんについて担当医師に尋ねてみたい質問を3つ考えるよう宿題を出している。次回のミーティングで、彼女らは医師から得た答えを話し合うことになっている。ドゥーラは、自分の話なんて聞いてもらえたためしがないと思いこみがちな彼女たちにとって「自分の声」を上げるのがいかに難しいか、自らの経験からよく分かっているからこそこんな宿題を出すのだと少女たちに説明している。その上で、自分と赤ちゃんを守っていくには、声を上げて伝えるべきことを伝える必要があると教える。ひとたびお母さんになったら、自分と赤ちゃんの運命に対して責任があるのだからと。また別のドゥーラは母親学級で妊娠中の少女たちのお腹を横側から毎月写真に撮り、その月々の赤ちゃんの様子や、その時期に自分が感じたことを書いたり話したりしてもらっている。わが子の将来のために何を望むかも書いてもらうようにしている。このドゥーラは、こうした実習を通じて、妊娠中の母親が、胎児は日に日に大きくなっている人間であることを理解し、赤ちゃんとの絆をより深めていくことができると信じている。

すべてのドゥーラは、出産と出産後の時期を、母親に耳を傾け、出産の喜びや興奮を分かち合い、母親としての自信や自分と子どもの希望に満ちた将来像を描けるように支援する時期とみなして大切にしている。もちろん、ドゥーラの支援があることによって、ない場合に比べ、彼女らの出産経験は大きく変わってくる。1999年秋までに得られた研究データによると、ドゥーラが出産に付き添った217件では、帝王切開率は6.45パーセントであった(参考:出産統計によるとアメリカの20歳未満産婦の帝王切開率は14.5パーセント)。ドゥーラに付き添われた母親の80パーセントは母乳育児を開始し、このうちのさらに80%が6週間以上継続した。ドゥーラに付き添われた母親とそうでなかった母親の両方を観察した小規模なパイロット研究では、ドゥーラの支援を受けた母親はより優しく赤ちゃんを扱い、赤ちゃんが求めていることに対してより敏感に対応し、話しかけもたくさんしていることがわかっている。(Hans, 1999)

ドゥーラ・プロジェクトのメンバーである3つの団体事務所の管理者たちは、自分たちのプログラムにドゥーラサポートが入っていなかった頃に比べると、現在のプログラムに参加している母親は赤ちゃんのニーズにより敏感で、より愛しているようだと報告している。

ある管理者の話;母親は赤ちゃんにとっても優しくて、幸せそうに見えます。母乳育児についてもよく話しています。喜びに満ちているようです。妊娠中もより前向きで、他の母親たちと出産についてもよく語り合っています。

別の管理者の話;ドゥーラに付き添われていた少女たちは自分の赤ちゃんをより深く愛していて、赤ちゃんに対する希望もいっぱい持っていますね。彼女たちは孤独なのかもしれないけれど、わが子の素晴らしさをドゥーラに語りたくてたまらないようにみえます。

ドゥーラたちは、自分が10代の母親のために「してあげること」によってばかりでなく、自分自身の「ありよう」を見せることで、若い女性の将来への期待、可能性を変えていくのである。ドゥーラの仕事では強い女性たちが結束し強力なチームとして活動する。彼女たちは10代の少女たちのために、協力関係とは何か、人との関係を築くとはどういうことかということをモデルとなって見せる。このプロジェクトの慎重に計画された綿密なトレーニングと指導体制によって、ドゥーラとなる女性は、自分自身の能力も引き出し、この仕事に就くまではもたなかったような自分の意見に気づいて自分を表現するようになる。このプログラムにかかわる多くのドゥーラが国レベルや地方レベルの会議に出席してプレゼンテーションをしている。またほとんどのドゥーラが、北米ドゥーラ協会(DONA)の認定条件を満たしている。このプロジェクトの初代ドゥーラの一人は、ドゥーラ指導者としてChicago Health Connection で働いている。つい最近トレーニングを終えてドゥーラになった19歳のドゥーラは、2年前には妊娠中でこのプログラムを通してドゥーラサービスを受けた。彼女自身がドゥーラになるためのトレーニングを受けようと決めたのは、他の若い女性たちもドゥーラに付き添われることで自分の力を高められるようにと強く望むようになったためであった。他にも、ドゥーラに付き添われて出産した3人の母親が、シカゴ公立学校団体とOunce of Prevention Fundがスポンサーのプログラムによる乳幼児の成長発達を見守る家庭訪問事業で活躍している。

ドゥーラの仕事に対する情熱、使命感は、彼女らの監督者の目、ドゥーラによって付き添われた母親の目に鮮明に焼きついている。プログラムの監督者の一人は以下のように語っている。

これは仕事ではなくて使命です。ドゥーラの仕事はそう思わなくてはできません。ドゥーラがそばに寄り添うことで、10代の少女たちの生きる力を高めるのです。ドゥーラは赤ちゃんが産まれる前から赤ちゃんと深く関わっています。お母さんが大事にされることで、赤ちゃんも変わってくるのです。

ある若いお母さんはこう振り返っている。

(ドゥーラは)私のすぐ傍にいて元気付け、気持ちを楽にしてくれました。どんな時もずっと、包み込むように優しくしてくれました。ドゥーラは私のことを決して怒ったりしませんでした。私が何をしようと、私を見捨てることはありませんでした。ドゥーラはただ傍にいてくれて、私たちを、私と赤ちゃんを愛してくれました。

このドゥーラ・プロジェクトは若い母親たちのための、人間関係をベースにした支援である。若い女性たちは、人として母親として成長する大事な時期に、一貫して優しく育んでくれる指導と支援をドゥーラから受けながら大きく成長していく。ドゥーラは思春期にある母親たちとその子どもたちの将来像を変えていく。シカゴ・ドゥーラ・プロジェクトは、その実験段階にあり、支援団体や出資者の期待を上回る結果を得てきている。今後も、赤ちゃんや母親、ドゥーラが成長していく過程、そして、思春期の母親を励まし、教育し、力づけていくこの新しい手法に大きな期待をかけて見守っていきたい。

ZERO TO THREE(http://www.zerotothree.org/)が発行する雑誌『Zero to Three』1998年4/5月号に掲載された内容を翻訳して掲載したものです。




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