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2001.1.5
「志(こころざし)」が育つ教育への転換を
(株)ベネッセコーポレーション代表取締役社長
福武總一郎

 ベネッセ教育研究所が20年にわたって行っている子どもの実態調査によると、今日の日本の子どもたちの傾向(問題点)として次の3つが挙げられる。
1「将来の目標の喪失感や、学習意欲に低下傾向が見られること。」、2「自分への信頼や肯定感といった自己評価が、諸外国に比べ極めて低いこと。」、3「社会のルールを守るなどの倫理観、規範意識が薄らいでいること。」である。もちろん、今の子どもたちには「ITへの適応」などのますます伸ばしたい特徴も多くあるが、この三大傾向をひとことでいえば、自分の人生はこうありたい、こう生きたい、といった「志」を持ちにくくなっているという事であろう。
 こうした傾向は、単に今の子どもたちの問題というより、実はわれわれ大人たちも含めた、21世紀を迎える日本人全体の憂慮すべき精神的傾向である。

 明治(時代)の学制の発布から戦後の教育改革、そして今日にいたるまで、文部省は国家としての教育の最大目標を、「欧米先進国に追いつき、追い越せ」としてきた。そのためには、国民を等しく画一的に教化し、導くというスタンスをとってきた。多くの人々もそのことに馴れきってしまい、国の政策や指示を常に待つ「受動的」な存在になり、教育はまさに上から与えられるものとなってしまった。このことは、子どもたちを含め、われわれ日本人の精神のありかたや行動様式にも深い影響をあたえているといえよう。

 しかし、時代はいつも変化している。時代と共に大人も子どもも変化しているのである。そう考えると、冒頭に述べた今の子どもたちの三大傾向とは、時代の過渡期に見られる時代の変化の兆候と見ることもできよう。
この、時代の過渡期にこそ、変化を楽しむような「志」が大切に思えて仕方ない。変化を体で感じ、変化を楽しみ、そして変化に挑む。子どもが夢中になって遊ぶように変化を楽しむ「志」こそ、新世紀にふさわしい何かを創り出す原動力になるはずである。そのためにも、子どもたちが自由に未来に羽ばたけるような「志」を持てる社会をわれわれは創り出していきたい。

 ベネッセコーポレーションの社名の原義である「benesse」とはラテン語からの造語で「よく生きる」という意味である。それをさらにわれわれは事業のテーマとして「"よく生きる"とは、『志』をもって夢や理想の実現に一歩一歩近づいていく、そのプロセスを楽しむ生き方のこと」と解している。

 21世紀は夢のある世紀にしたい。子どもも大人も、体からあふれ出るような希望で埋めつくされた社会にしたい。そのためにも、「志が育つ教育への転換」をわれわれの教育事業の願いとして掲げたい。



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