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シリーズ(9)
気になる数字:
高校卒業者の進路
「左記以外の者」
の増加

 昨年発表された文部省の「学校基本調査」を見ていて、気になる数字が目に入った。高校卒業者のうち、「左記以外の者」(家事手伝いの者、海外の高校・大学に入学した者、その他の進路未定者)が、12万7千人、割合にして9%を超えたというのである。以前の「学校基本調査」ではこうした卒業生を「無業者」としていた。それが、今回の調査からは「左記以外の者」となった。なるほど、無業者というと失業者に近いイメージがわく。高校生の就職難が強まっていることから、就職したくてもできない高校生が増えたため、と思われがちだ。だが、気になるのは、就職活動を熱心に行ったわけでもない「フリーター」や、本当に進路が何も決まらないまま卒業してしまう「進路未定者」の増加である。

 文部省がまだ「無業者」のカテゴリーを使っていた1996年頃、私はいずれこうした進路未定者の問題が深刻化するのではないかと思い、「進路多様校」と呼ばれる東京の高校を調査した。その時も学校基本調査を見ていて、無業者の数値がそれまでの4〜5%台から7%へと増えたことが気になったからである。当時、マスコミなどでは、女子大生の就職難が女性差別の問題と結びつけられて問題にされていたが、高卒無業者の急増を問題にする向きはほとんどなかった。あれから4、5年が経ち、進路の決まらない高校生の数はさらに増え、いまや10人に1人の割合に近づいている。そして、教育界やマスコミもやっと、この問題の深刻さに気づき始めた。

 96年の調査でわかったのは、最終的に進路が決まらないまま卒業を迎える高校生の多くが、そもそも進路を明確にしようとする活動を行っていないことであった。卒業間近の時点で進路未定となる生徒が、その年度の春や夏や秋にどのような進路にかかわる活動をしていたのかを尋ねると、「何もしなかった」が3年生の春で85%、夏で68%、秋になっても79%と非常に多かった。そして進路未定者の53%は、春・夏・秋のどの時点でも進路決定にかかわる活動を何もしていなかったのである。

 進学であれ就職であれ、情報を集めたり、学校訪問や会社訪問などを自分で試した結果、進路が決まらないというのではない。そもそも、そうした活動をまったくしないまま卒業を迎える生徒たちが、進路未定者の半数以上を占めるのだ。懸命に、自分なりに考えた揚げ句、何をしていいのかわからないというのではない。そもそもそういう回りくどいことを考えようとしないまま、何をしたいのかわからない生徒たちが、進路を決める活動にもかかわることなく、卒業していくのである。この無活動のまま進路の決まらない生徒は、職業科より普通科に多い。

 私たちの社会は、子どもたちの進路をあまり早くに狭めないことをよいことだと信じてきた。チャンスをできるだけ与えるために、進路決定の時期を遅らせたり、多様な進路が選べるようたくさんの選択肢を用意することが「よい教育」だと考えてきた。職業科よりも普通科を増やしてきたのは、その流れに乗るものであったし、現在でいえば総合科や単位制高校なども、同じ考えの延長線上にある。

 そのよかれと思って進めてきた改革のはざまに、落ち込んでいく若者が増えている。彼らの意欲や選択に任せた結果が、13万人近い「左記以外の者」の高卒者をつくり出した。それも「自分探しの旅」なのだろう。いや、確かに、今の教育の「成果」であることは間違いない。

 「それでも生きていけるではないか」という声が背後から聞こえてきそうだが、それを許す私たちの社会の豊かさが、どのような歴史的経緯ででき上がってきたのか。何を犠牲に豊かな社会をつくり上げてきたのか。そして「左記以外の者」の若者たちは、本当に将来にわたって豊かに生きていけるのか。そこに思いを寄せると、その声がまるで悪魔のささやきのように耳に残るのである。

【かりや・たけひこ】教育社会学者、ノースウェスタン大学大学院修了。著書『学校って何だろう』(講談社)他。



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月刊/進研ニュース[中学版] 第250号 2000年(平成12年)2月1日 掲載



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