●HOME●
●図書館へ戻る●
●一覧へ戻る●

シリーズ
授業を創る(2)

授業「研究」の発想を変える
アクションリサーチのすすめ1

 「研究」という言葉から皆さんが連想する単語を並べてください。校内研究、研究開発指定校制度、研究紀要、研究報告書、研究者、研究会、勉強会、公開授業…などがあがってくるかもしれません。「研究」というと、研究紀要、実践論文というかたちで完成していくイメージが強かったり、「勉強する・情報を得る」という意味合いがどうも強いようです。

 元来「研究(リサーチ)」とはどういう意味か、英英辞典などで調べてみると、「再びみる、改めて探究する」という行動を指す言葉なのです。別に紀要や論文というかたちは必要ありません。1990年代に入ってから、欧米の教師教育では、「アクションリサーチ」という方法が学校づくりのなかに取り入れられ、アメリカ教育学会の教師教育の分野でも一つのネットワークを構成しています。「アクションリサーチ」という手法自体は、40年代にクルト・レビンという社会心理学者によって社会変革の理念をもって唱えられ、進められているもので、別に新しいものではありません。これまで企業でも数多く行われてきているものです。研究というと机上で行うものだというイメージが強いですが、「アクションリサーチ」は行動を通して研究することで、「教育実践」だけでも「教育研究」だけでも成り立ちません。平たく言えば、実践者たちによる実践のための実践研究なのです。

 つまり、研究から実践へのあり方を考える動きであり、出来事の記述、解釈で終わるのではなく、明確な目的を持ち次への変化を求め続けていく研究法だといえます。そのために、これまで当たり前だと思って用いてきた実践研究の道具や記録のあり方の吟味を求める動きでもあるのです。

 「アクションリサーチ」が学校教育の分野で今改めて求められてきているのは、学校、教育をめぐるこれまでの「研究」のあり方への反省があるからです。「教師が研究者」という教師の声を軸にした学校づくりが現場の教師の専門性を育てるものだからです。それは、研究する人―される人の関係の見直し、「研究者」対「実践者」という二分法を問い直す意味も持っています。また、「研究は一人でするもの」という発想からの転換でもあります。

 「そんなこと、私の学校では今までずっとしてきていることだ」と言われるかもしれません。そう言われる方は、次の3点から、現在行っている研究を振り返ってみてください。

 第1に、校内研究や取り組む研究の主題が具体的な問いになっているでしょうか。「心豊かでたくましい○○」「共に学び合う○○」という、魅惑的だけれど広義抽象的な主題を設定し、結局は個々の実践者任せで、結果は「研究してよかった」というだけの感想に終わってはいないでしょうか。協働探究し共有できる知を生み出せる具体的問いになっているかを考えてみましょう。その主題に関して、生徒たちの具体的な声が聴きとれるかも考えてみましょう。リサーチクエスチョンこそ、その学校のセンスが問われるところです。これからの学校には、知のアウトプットの質が問われています。他者が共有できる知を、創造できる問いでしょうか。

 第2に、実践を研究するための記録や道具を振り返ってみましょう。事実に返って検討できる記録がなされているでしょうか。その時参観した印象や感想を、根拠をもって深められる手立てが準備されているでしょうか。実践の検討結果だけではなく、検討の過程を吟味できる方法があるかどうかが問われるところです。

 第3に、協働研究として参加している先生たちにとって、実践というのは授業で、検討会は研究という意識を持っている人が多いのではないでしょうか。「アクションリサーチ」には、その全過程において、参加する人が「私は今、ここで何ができるか?」を考えていくという視点が求められます。実践をした一人の先生だけをまな板の上の鯉にするのではなく、検討の過程こそ実践であり研究の過程だという意識を持つことです。頼り合いで何かをもらうのではなく、引き受け合って必ず何かを提供することが求められます。多くの研究紀要や実践に関する本では、この検討の過程は省略され、せいぜい個条書きでポイントが書かれているだけです。しかし重要なのは、この過程のありようなのです。

 そこで次回は、「アクションリサーチ」を進めるための過程について具体的に考えてみることにします。

【あきた・きよみ】1957年大阪府生まれ。立教大学文学部教授を経て現職に。専門は学校心理学・発達心理学。教師教育についても深く研究している。著書は『日本の教師文化』(東京大学出版会、共著)、『教室という場所』(国土社、共著)など。



for Teachersへ
先生のフォーラム


フォーラムへの参加には、CRNメンバーサイトの利用者登録が必要です。
 ・CRNメンバーサイト利用者登録をお済みの方はこちら
 ・CRNメンバーサイト利用者登録をお済みでない方はこちら


株式会社 ベネッセコーポレーション ベネッセ教育研究所発刊
月刊/進研ニュース[中学版] 第253号 2000年(平成12年)5月1日 掲載



Copyright (c) 1996-, Child Research Net, All rights reserved.

?