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新シリーズ/
学校コミュニティの
創造へ向けて(5)

保護者と地域を
「学校コミュニティ」の
構成員ととらえよう

 「開かれた学校」が学校改革論議のキーワードになっています。1980年代後半の臨時教育審議会(臨教審)以来、学校はさまざまな面で「開かれる」ことを求められ続けてきました。しかし、それが要請され続けているということは、「学校は相変わらず開かれていない」という現状を映し出しているともいえます。

 数年前に都内のある小学校を訪問した際、校長先生が思わず「こじ開けられた学校」という言葉を口にされました。単に学校が「開く」ことをかたくなに拒否しているということでは片づけられない、学校と保護者・地域との錯綜した関係の存在が、彼の苦々しい表情から推測できました。

 年ごとに指導が難しくなる子どもたちの現実。それにおかまいなしに要請される新しい教育課題の数々。さまざまな葛藤を胸に押し込めつつ教育活動に地道に取り組む多くの先生方。そのような事情を十分に理解もせず、理不尽な批判や身勝手な要望を突きつけてくる人々。それでも学校は自らの意思とは無関係に、とにかく「開く」ことを求められ、それに応えなければならない…。そんな割り切れない思いと憤りが、「こじ開けられた」という表現に込められていたのでしょう。

 「開く」ことに対する学校の忌避意識は思いのほか根強いようです。なるほど「総合的な学習の時間」は保護者や地域の人々による授業場面への参加を促していますが、「授業を手伝ってもらう」程度の関係にとどめておこうというのが、学校側の大方の意識だと思います。学校から発信される情報の内容やその発信の仕方にも、一方向的な色彩はぬぐいきれません。保護者や地域の人々からの子どもに対する関心や率直な思いを敏感に受けとめ、そこからコミュニケーションを創り出すという双方向的な関係づくりには積極的になれないという学校が少なくないでしょう。

 多忙と煩わしさを増幅させることが確実なのに、なぜ「開く」必要があるのか、という声が聞こえてきそうです。その問いには、「学校を開くことで教師の研修・教育活動の活性化を促し、子どもの学びをより豊かにすることができるから」と答えたいと思います。「時代の流れ」とか「親を納得させるため」という表層にとどまるものではありません。

 ここ数年、いくつかの学校の教育活動を垣間見るにつけ、学校が積極的に保護者や地域の人々との相互交流を図り、参加を促すということが、教師の教育活動と子どもの学習活動の活性化に密接なかかわりを持っているという印象を強くします。「もともと学校に協力的な保護者と地域に囲まれていれば…」と反論したい向きもあるでしょうが、そうではありません。長い間「断絶」とも言える状態にあった学校と地域との関係のなかで、管理職や一部の教師が地域とのインフォーマルな交流回路を開拓し、それが契機となって教師の研修活動の活性化と地域の人々の教育参加を促し、子どもたちの豊かな学習活動を創り出しつつあるという事例が、確かに存在するのです。

 私たちは「学校」の構成員を教師と子どもに限定して考えがちです。「開かれた学校」という言葉の裏にも、そうした前提があります。しかしながら、学校のなかで行われる子どもたちの学習活動は、保護者や地域の人々の子どもや学校に対する関心・態度と密接に相関しています。学校で教育を行う主体はまぎれもなく教師ですが、その効果に影響を及ぼす重要なファクターとして、保護者・地域による学校へのかかわりがあるのです。

 こう考えると、教師と子どもに限らず保護者と地域の人々を「この学校の関係当事者」として含む「学校コミュニティ(school community)」ともいうべき視野で、学校組織をとらえ直すことが必要なのではないでしょうか。

【はまだ・ひろふみ】1961年山口県生まれ。東京学芸大学助教授を経て98年9月より現職。専攻は学校経営学・教師教育論。学校が「自律性」を確立するために学校内部組織はどうあるべきかについて、日米比較の視点をもって研究。著書に『中学校教育の新しい展開第5巻 生徒に開かれた学校をめざす教育活動』(第一法規出版)、『諸外国の教育改革と教育経営』(玉川大学出版部)、『「大学における教員養成」原則の歴史的研究』(学文社)などがある(いずれも共著)。



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株式会社 ベネッセコーポレーション ベネッセ教育研究所発刊
月刊/進研ニュース[中学版] 第267号 2001年(平成13年)9月1日 掲載



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