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新シリーズ/
学校コミュニティの創造へ
向けて(13)

教師自身の指導を見直す
契機としての「小・中連携」を

 「同じ"学校"でも、高校と中学校と小学校は、ホントに違うんですよ」。

 高校を皮切りにして中学校、小学校で教鞭をとり、小学校の校長になったというAさんは、名刺交換もそこそこに、堰を切ったように話し始めました。それは、よくある「研究者批判」ではありませんでした。教師が、他の学校段階での子どもの生活にはおかまいなしに、自分の学校だけの閉じられた論理で一方的な指導をしている、という「教師批判」でした。

 彼女も高校にいたころは、批判的な目で中学校を見ていたそうです。ところが中学校で、わずか三年の間に劇的な変容を遂げる生徒たちを目の当たりにすることによって、見方は大きく変化したと言います。さらに小学校では、入学直後は″言葉さえ通じなかった幼い子どもたちが、六年間かけて、実にたくさんの力を身につけていると痛感したそうです。

 中学校の教師は、入学してくる子どもたちが小学校で何をどのように学んできたかを十分に理解していない。だから小学校でいろいろなことを身につけている子どもたちに対して、それを生かすことなく指導する。子どもたちはそれでも必死に適応しようとし、戸惑い、あるときには危機に直面する。教師は意外とそれに無頓着だ、と話は展開していきました。

 中学校教師に厳しい目を向けつつ「中学校がいちばん面白いんです」と声を弾ませるAさんの、教育専門職としての自信とプライドに敬意を抱きながら、私はある小学校でのエピソードを思い起こしていました。

 その小学校では数年前、子どもとの間に深い溝が生じていると、多くの先生方が胸のうちを吐露し合いました。知識を教えるだけの従来型の授業を続けていても子どもはついてこない。そう考えた先生方は、体験的活動を取り入れた授業改善に着手しました。

 長年のやり方を変えて、子ども自身が動き、考え、創り出す活動を生かした授業への転換を図るには、勇気が必要でした。でも、試行錯誤を重ねるうちに、子どもたちの態度に変化が現れ、教師との関係も子ども同士の相互作用も見違えるようになってきました。

 その先生方が、同じ校区の中学校の先生方との連絡会をするたびに、考え方のズレを痛感すると言います。中学校側は、「新入生の学力が低い。入学までにしっかりとした知識を身につけさせてくれないと中学校の授業が成立しない」と主張します。それに対して小学校の先生方は、「高校受験を三年後に控えて、所定の知識を積み上げていくことに傾注しなければならない中学校の立場を理解できないわけではない。でも、今の子どもたちの現実をきちんととらえないまま一方的に知識を伝えようとする教師の授業のあり方をどうして見直そうとしないのか…」と疑問を募らせます。

 このケースに限ってみるなら、子どもの現状をとらえて授業改善に取り組んだ小学校側に分がありそうです。ただし、Aさんが言うように、小・中の教師同士の無理解が子どもたちの学校生活にさまざまなひずみをひき起こしかねないとすれば、放ってはおけません。互いの実情を理解するべく連携する手立てを考える必要があるでしょう。

 「小・中連携」というと、普通はカリキュラムの連続性や教材の関連づけ、あるいは児童・生徒の交流という点に注意が向けられます。しかし、それらを表層的・形式的なものにとどめないためには、まず教師自身が相手の学校の実情を身をもって理解する必要があるのではないでしょうか。

 Aさんによれば、最も手っ取り早い手段は、お互いに相手の学校へ行って授業をしてみることだそうです。

【はまだ・ひろふみ】1961年山口県生まれ。東京学芸大学助教授を経て98年9月より現職。専攻は学校経営学・教師教育論。学校が「自律性」を確立するために学校内部組織はどうあるべきかについて、日米比較の視点をもって研究。著書に『中学校教育の新しい展開第5巻 生徒に開かれた学校をめざす教育活動』(第一法規出版)、『諸外国の教育改革と教育経営』(玉川大学出版部)、『「大学における教員養成」原則の歴史的研究』(学文社)などがある(いずれも共著)。



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株式会社 ベネッセコーポレーション ベネッセ教育総研発刊
月刊/進研ニュース[中学版] 第276号 2002年(平成14年)9月1日 掲載


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