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新シリーズ/
学校コミュニティの
創造へ向けて(14)

学校当事者と研究者を含めた
「学校コミュニティ」の構築へ

 「学校経営学」という言葉からどんなことを連想されるでしょうか?

 「校長・教頭が学ぶもの」、「一般の教員には関係ないもの」、あるいは「教員を管理するためのもの」など、自分には縁遠いという印象を持たれている方も多いでしょう。

 実際、この研究分野での議論を学校現場の先生方に知っていただく機会は限られています。その一部は、管理職や主任向けの書物・雑誌や研修などになるでしょうが、そこで伝えられるのはごく一部の議論でしかありません。学校を一つの組織ととらえ、個々の授業や指導というよりも学校全体の組織活動を対象に据えているだけに、一般の先生方から敬遠されてしまうのは仕方がないのかもしれません。

 しかし、このところ「学校に“組織マネジメント”の発想を!」などということが政策関係文書を通じて流布されている状況などをみると、複雑な思いにかられます。実は、教育組織としての学校の自律性の大切さと、経営的視点から学校組織をとらえることの必要性に研究者の強い関心が向けられて、すでに四十年以上が経過しているからです。そこでは企業組織からの類推ではとらえきれない「学校組織」の独自性が議論されてきました。にもかかわらず、そのような知見は政策担当者の視野に十分入っていないようです。

 昨年の本紙十一月号で紹介した「学級崩壊」の問題についても同じようなことが言えます。教室内の教師と子どもとの間で起きている事態が、実はその学校の組織と経営のあり方と密接不可分の関係を持っているということ。残念なことに、管理職を含めた多くの先生方に、そのような認識が共有されているとは言えません。

 そのいちばんの原因は、学校経営の研究者が、研究者だけの「閉じられた世界」でしか議論をしてこなかったことにあると思います。研究者と学校現場の当事者との情報交流回路を開くことに、われわれ自身が無頓着だった、と最近感じています。

 日本教育経営学会の年次大会では、昨年度から三年計画で「学校経営研究における臨床的アプローチの構築」のテーマで課題研究を進めています。学校経営研究が学校現場の“役に立つ”ために、研究者と学校との関係のあり方を問い直そうとするものです。

 私が司会を務めた昨年度の大会では、現職派遣で大学院に通って学校経営学を学んだ非管理職の教員の方々からいくつもの意見が出されました。その内容は「学校経営学は現場に知られていない」ということに尽きるのですが、私は大いに刺激を受けました。

 意見の一つにこんなものがありました。「これまで管理職を介して知られてきた“経営”概念が本来の意味ではないということを、大学院に来て初めて知った。実は校内で教員が行っているすべての仕事にとって“経営”はとても重要なことであり、すべての教員がもっと“経営”をきちんと学ぶ機会を持つべきだ…」。つまり学校経営学は「知られていない」だけでなく、誤解のもとに忌避されてもいるわけです。

 私がこのコラムを担当させていただいている間にも、さまざまな制度改革が実施されました。新学習指導要領の実施がそうであるように、それらは学校に、これまで以上に多くの重要な意思決定を要請するものです。「行政依存」でも「横並び」でもない判断を行うためには、その確かなよりどころとなる十分な情報と知見が不可欠です。

 われわれ学校経営学を専攻する研究者にとって大切なのは、個々の学校が必要とするそうした情報や知見を提示し、教職員の方々の意思決定を支援しながら学校の改善に参加していくことではないか、と私は考えています。そのようにして、子ども、教職員、保護者、地域の人々と共に、研究者もまた、「学校コミュニティ」の一員として認知されるよう、取り組んでいきたいと思っているところです。

【はまだ・ひろふみ】1961年山口県生まれ。東京学芸大学助教授を経て98年9月より現職。専攻は学校経営学・教師教育論。学校が「自律性」を確立するために学校内部組織はどうあるべきかについて、日米比較の視点をもって研究。著書に『中学校教育の新しい展開第5巻 生徒に開かれた学校をめざす教育活動』(第一法規出版)、『諸外国の教育改革と教育経営』(玉川大学出版部)、『「大学における教員養成」原則の歴史的研究』(学文社)などがある(いずれも共著)。



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株式会社 ベネッセコーポレーション ベネッセ教育総研発刊
月刊/進研ニュース[中学版] 第277号 2002年(平成14年)11月1日 掲載


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