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新シリーズ/
学校コミュニティの
創造へ向けて(最終回)

生徒に向き合う当事者として、
互いの自信と意欲を再確認しよう

 現職派遣の大学院生Aさんが真剣な表情で尋ねました。

 「小・中学生の不登校者数十三万九千人。この数字から、学校をどうみるべきでしょうか?」

 毎年八月の中旬になると、不登校児童生徒数の増大が「ニュース」となって巷に流されます。「少子化の進行にもかかわらず不登校は増大傾向。学校不信はさらに加速」という論調です。

 しかし、Aさん曰く、「全国千百四十万人の小・中学生のうちの不登校者は一・二%。今の社会のなかで、この数字を単純に学校への批判や不信の根拠にしてよいのでしょうか? 逆に『学校の先生たちはよく頑張っている』という見方をすべきではないでしょうか?」と。

 かつて現職派遣で大学院に来ていた中学校教員Bさんと、昨秋、久しぶりに杯を交わしました。ひとしきり思い出話に花が咲いたあと、彼はしみじみと語りました。

 「昔は市内でも″生徒が落ち着いている学校 が必ずいくつかあったんです。でも、今はそうじゃない。この学校は大丈夫、と思える学校がほとんど見当たらないなあ」

 数年前に彼の中学校を訪問し、彼を含む四人の先生方とお話ししたことがあります。地域に困難な要素を多く抱えた学校でしたが、先生同士の会話は生徒への愛情にあふれていました。あのときの、生徒を主題とする滑らかで前向きの教師間コミュニケーションは、困難を抱える生徒たちと向き合う教員集団の「協働の証」だったといえるでしょう。

 四、五年前まで、県下でいちばん荒れているといわれていた中学校があります。四年前に着任したC先生によると、当時は授業中に窓際で寝そべったり勝手に退出したりする生徒がいても、教師は何もしない状態だったそうです。ところが、今その学校を訪問しても、まったくそんな気配は感じられません。

 生徒たちと先生方との明るく自然なやりとりのようすもさることながら、いちばん印象的だったのは、先生方の自信に満ちた表情です。「教師同士で夜中の三時までとことん話し合ったこともありますよ。『このままじゃダメだ、こうしよう』って」と、C先生はにこやかに語りました。学校として生徒たちに何をすべきかという、組織としての目標の共有化に向けた確かな取り組みが、先生方の表情を支えていたのでした。

 中学校の事務職員をされているDさんからうれしい電子メールが届きました。「お金がないから」という理由で集金を拒否し、小学校時代から一切の校外活動に子どもを参加させていなかった就学援助対象の保護者が、Dさんの「ちょっとした働きかけ」で「とても協力的に」なったそうです。その生徒が校外活動に参加したときの「うれしそうな顔が忘れられません」とのこと。

 最近の改革施策は、学校教職員への不信感に根ざしているように感じられます。そんな施策にばかり接していると、日々生徒たちと真剣に向き合いながら学校の改善に尽くしている当事者は、意欲をそがれてしまいそうです。

 前掲の三つの中学校の例は、生徒にじかに接する教職員自身の地道で確かな取り組みこそが、学校改善(生徒の学習と生活を充実させる)の重要なカギを握ると元気づけてくれます。教職員の方々がそれを "実感" すること自体が、自らのかけがえのない自信と意欲を引き出し、次の改善を生み出していくのではないでしょうか。

 慌ただしさのうちに、また新年度のスタートです。学校が持つ「教育力」を信じて「組織としての学校」の動きを見つめ、それにかかわっていきたいと思います。



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株式会社 ベネッセコーポレーション ベネッセ教育総研発刊
月刊/進研ニュース[中学版] 第279号 2003年(平成15年)3月1日 掲載


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