●【寄稿】子どもの飢えをなくすために
(2005年9月22日)
現在、世界には慢性的な飢餓に苦しむ人々が8億5,200万人存在します。実に8人にひとりの割合で飢えている人がいます。今、全世界64億人全員が生きていくのに十分な食糧があるにもかかわらず、貧困や紛争、自然災害など、さまざまな原因で飢餓は起きています。 世界の栄養不良人口のほとんどは子どもや女性です。栄養不良の母親から生まれてくる子どもは、同じように栄養不良に脅かされます。飢えに苦しむ3億人の子どものうち、1億人以上が学校に通うこともできない状態にあります。たとえ学校に通うことができたとしても、空腹を抱えた子どもたちは授業に集中することができません。 エイズ・マラリア・結核による死亡者の合計は、一年あたり世界で560万人。飢えを原因として死亡している人の数は約1,000万人とその倍です。5歳未満の子ども1万8,000人を含む、2万5,000人が毎日静かに息を引き取っています。スマトラ沖大地震と津波による死亡・行方不明者はおよそ30万人と言われています。12日に1回の割合で、それと同規模の被害が飢えを原因に起こっているのです。
いま飢えに苦しむ子どもたちが生き残って大人になったとしても、幼少期に十分な栄養を得られなかった代償は小さくありません。慢性的な栄養不良は身体のみならず脳や神経系統の発達までを阻害します。飢餓問題を放置することは人的資源の低下につながり、国家経済にとって大きな経済的損失となるのです。
国際社会は、2000年の国連ミレニアムサミットで、平和と安全、開発と貧困といった世界規模の課題にどう取り組むかについて合意しました。2015年という達成期限と具体的な数値目標を掲げ、8つの目標からなる「ミレニアム開発目標」を定めました。「ミレニアム開発目標」は、この9月14日から16日までニューヨークの国連本部で開かれた国連総会特別首脳会議の主要議題の一つでした。目標達成に向けた課題と方策が、会議の成果文書に盛り込まれました。
「飢餓人口の割合を2015年までに半減させる」という目標は、8つの「ミレニアム開発目標」の第一課題です。飢餓問題を解決するということは、教育、女性の地位の向上、乳幼児死亡率の減少など、その他の開発目標の達成に道筋をつけることになります。飢餓を撲滅することは、何億人もの人々に、成長と開発のための門戸を開くことにつながるのです。
WFP(国連世界食糧計画)は子どもの飢えをなくすための支援を集中的に行っています。学校給食の提供と5歳未満の乳幼児に対する食糧支援を優先事項とし、2015年までに飢えた子どもを完全になくすことを目指しています。
開発途上国における学校給食は、WFPが最も力を入れている事業の一つで、40年以上にわたって実施されています。WFPは、学校給食を通じて子どもたちを飢えから救い、同時に教育の機会を拡げています。2004年には世界72ヵ国、1,660万人の子どもたちに学校給食を支援しました。2007年末までにこの対象を5,000万人に拡大する計画です。学校給食や持ち帰り食糧を提供することにより、親は子どもたちを働かせるより通学させるようになり、特に女の子の教育の機会の拡大が確認されています。さらに、学校給食で空腹が満たされれば児童は学習に専念できるようになります。そして、最も基本的なことですが、子どもたちは少なくとも1日に1 回は栄養価の高い食事をとることができるのです。
学校給食を通じて子どもたちの飢えをなくし、より明るい未来を届けよう。この主旨に賛同し、今日本では多くの企業・団体や個人の方々がWFPの活動に協力してくださっています。たとえば、社団法人公共広告機構。WFPの学校給食を支援する公共広告キャンペーンを昨年7月から実施し、今年7月からはキャンペーン第2弾を開始してくださっています。
さらには、WFP の活動への民間協力の日本での窓口、国連WFP協会の会長に伊藤忠商事株式会社の丹羽宇一郎会長が就任してくださいました。丹羽会長のご尽力で、10月にあらたに「国連WFP 協会評議会」が設立されます。これは、飢餓や貧困問題の解決に貢献したいとする企業・団体・個人の受け皿になるものです。国連機関と民間部門が、子どもの飢えをなくすために協働する−こうした新しいパートナーシップの在り方を提案します。
子どもの飢えをなくすという目標の実現には、政府、国連機関、NGO、企業、一般の方々の理解と協力が求められます。より多くの方々の関心を呼び起こし、行動につなげてもらおうと、10月に「WFP 世界の学校給食展 2005」が開催されます(国連WFP協会主催)。お時間がございましたら是非お越しください。
*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-**-*-*-*-*-*-*-*- 【著者紹介】 玉村美保子(たまむらみほこ) WFP(国連世界食糧計画)日本事務所代表 89年から国連勤務。アンゴラ、モザンビークを含む国連平和維持活動や、紛争後の復興開発、地雷対策プロジェクト等の活動に携わる。02年6月より現職。政府、NGO、民間企業、地方自治体等とのパートナーシップを構築し、世界の飢餓や貧困に対する理解の向上に努めている。
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