自然科学書「進化」を続ける進化論森田暁 博物館プランナー |
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生物の進化に関する学説の流れが大きく動こうとしている。例えば、大阪府高槻市にあるJT生命誌研究館では、現在、昆虫の一種オサムシのDNA解析に基づく進化の展示を行っているが、その結論は、かつてS. J. グールドなどごく少数の古生物学者が主張していた「断続平衡説」とよく似ていて、進化は漸進的なものではなく、急激に変化する時期とほとんど変化しない時期が交互にあらわれるという考えである。 今回は、進化論の現在を解説する本を紹介しよう。『水辺で起きた大進化』は、魚が上陸して両生類に変身した進化と、いったん陸上生活に適応した哺乳類が水中に戻ってクジラに変身したという二つの話題に焦点をしぼって、進化研究の最前線を紹介する本である。 大進化とは、新種の形成やそれ以上のレベルでの長期間にわたる進化的変化を指す。種内における進化的変化(集団遺伝学に基づく総合学説の遺伝的なメカニズムが有効である)、つまり小進化と対をなす。大進化においても、新ダーウィン派の言うような漸進的な進化が成り立つのかどうかが現在の論点である。このあたりの研究は、ここ10年ほどの間の分子発生生物学の発展のなかで急速な進歩を遂げたという。 本書にはその内容が紹介されているのだが、化学分析を主とする分子生物学と、化石発掘を主とする古生物学が共同して学問を前進させていくさまが描かれている。特に、パキスタンで発掘された四つ足を持ったクジラの祖先の化石からクジラが誕生する進化の過程を想像するくだりが魅力的である。 『進化』は副題を「宇宙のはじまりから人の繁栄まで」とする、大学1年生用の教科書で、立教大学の岩槻邦男教授を中心としたチームが、文系と理系の学生を対象に行った通年講義の記録である。宇宙の進化から文化の進化まで幅広く扱うが、中心をなすのは、生命の始まり、真核生物の誕生、植物の陸上への進出、動物の大進化などで、現在の進化研究の基本をおさえるには十分な内容となっている。興味を持たれた方は気軽に手にとってみてはいかがだろうか。 |
『水辺で起きた大進化』 | ||
カール・ジンマー 著 渡辺政隆 訳 |
早川書房 | \2,300 (本体価格) |
『進化―宇宙のはじまりから人の繁栄まで』 | ||
岩槻邦男ほか 著 | 研成社 | \2,000 (本体価格) |