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 日本赤ちゃん学会未来を育む赤ちゃん研究
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 第2回学術集会 特別講演
 愛は脳を育てる−脳科学からの提言−

 平成14年4月14日 松本元(理化学研究所脳科学総合研究センター)

4月14日 13:40〜14:40

 チンパンジー乳児における視線の理解
−母子間コミュニケーションの基盤として−

  1. 脳の目的  

    脳は、自ら情報を選択し(目標を設定し)、その目標を達成する為の仕組み(情報処理の仕方)を自律的に創ることを目的とするシステムである。言い換えると、脳は、思えばそのことを成す為の仕組みを創り出す。脳は情報処理の仕方を獲得することが目的であり、脳からの出力(感情表出、言動及び認知出力)はそのための手段である。従って、人の生きる目的は、どれだけのことを成すか(出力するか)ではなく、高きに向かって進んで行く努力のプロセスにあると言える。

  2. 脳の出力依存性と人の幸福  

    脳は、目標を予め設定して、出力依存的に自己形成される。例えば、「今日こんな事をしたい」という目標が設定できずに、朝起きられない子供がいるとしよう。この子が朝起きるコツは、ベッドから抜け出し、起きるという方向に1歩アクション(出力)する、ということである。その一歩の踏み出しが、目標の達成に向けての仕組み作りとして最も重要な手段である。「考えてからやるな、やってから考えろ」というのが、脳を育てる基本原理であり、どの人の脳にも備えられている戦略である。
     今まだ自分では成しえない目標を設定し、こうしたらできるのではないか、と思ってやってみたとしても、すぐさまこの目標が達成できるとは限らない。むしろできないのが普通であろう。いわゆる"失敗"や"挫折"を通してのみ、独創的な新しい考えや創造的な物が創りだされるのである。うまくいかなかったとしても、一歩踏み出したことによって脳活性は上がり、目標達成の仕組み作りに向けて脳は効率的に働くことになる。この結果、実は"失敗"と思えた試みが、次のステップへのアイデアやデータを考え出す貴重な土台として役立つ。現代社会は、人を出来高(出力の程度)で評価するので、失敗を容認しない傾向がある。しかし、それでは社会から決して独創性のある人材が産み出されないだろう。
     幸福とは、その人のいる位置(出来高)ではなく、高きに向かって挑戦している只中にあるのである。苦しみの中に喜びを得る人は幸せである。

  3. 愛と自立  

    乳児期は、ヒトは大脳古皮質を主体として生きるので、この時期に十分に甘えることができずに育った人は、「愛されない」「全てを受け容れてもらえない」という不充足感の為に、自分に対する存在不安を持つに至り、自我の喪失感を無意識に持つ。また幼児期に愛を十分に受けて育っていないと、人や社会に対する恐れを持つ。自分がやりたい事をやりたいようにしたら、人や社会から受け容れてもらえない、と捉えるので、人や社会の価値尺度から自分の価値を推し量る。すなわち、他者依存的な人格が根底に形成される。現代の人や社会の価値基準は、どれだけのことをできるか、という出来高評価であるので、人は、自分を含めた人の価値をその人の出来高で評価することになる。この結果、人は社会の間尺に応えるべく、出来高を高めるように頑張る。しかし、このような頑張りは、自分が本来好きな事に取り組んでの頑張りではないため、挫折や失敗に遭うとその原因を他者や周囲の状況のせいにする。他者依存的な性格の持ち主が、他者や周囲の恐れの中で頑張っているので、キレやすいのである。
     これに対し、幼児期に愛を十二分に受けて育った人は、自分が好きなことを好きなように取り組むことに恐れず、楽しむことができる。自立した人となる。愛と自立は表裏一体である。自立した人は、自分がどれだけのことができるかによらず、自分自身を愛することができるので、好きなことに取り組んで思い通りにいかなくても、生きるということに不安を抱かず、その対象に継続して集中し取り組める。これは、脳の目的と全く合致する生き方である。"愛は脳を育てる"と言う由縁である。



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