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 無意味語反復でわかる、こどもの語彙能力

佐藤久美子・兼築清恵(玉川大学文学部)

 佐藤でございます。
 この研究のバックグラウンドについて、「幼児期のバーバルイミテーション」と書いていますが、いわゆる”ものまね”です。単語の真似とその後の語彙の発達研究について、ここ10年ぐらい様々な研究が行われています。
 例えば2歳初めのころから真似ができるようになることが注目されています。13ヶ月の乳幼児のなかでうまく真似のできる子どもをみていると、その4ヶ月後の17ヶ月、あるいは8ヶ月後の21ヶ月の頃に語彙が発達していることがわかるという研究が出ています。バーバルイミテーション、つまり語を真似することと語彙の発達には非常に密接な関係があって、言葉を真似する力を見ることで、将来その子の語彙がどのように発達していくかを予測できるのではないかという研究です。この他にも、例えば20ヶ月の時点でものまねがよくできる赤ちゃんを研究してみると、やはり28ヶ月頃にその子は、他のものまねのできない赤ちゃんに比べて、語彙がよく発達しているということがわかってきています。

 初期の語彙の量を語彙サイズと言いますが、その語彙サイズは、のちの語彙サイズと関係があることはわかりますが、さらに興味深いのは、その真似をするときの馴染みのない語についてです。何もかも真似をすればよいというものではなく、なじみのない語・普段使っていないような語をいきなり与えられたときに、それをうまく真似ができる子どもは、将来の語彙発達の予測ができるということです。
 すると、例えば2歳の頃に馴染みのない言葉をお母さんが子どもに遊びの感覚で真似をさせることで、将来的には語彙の発達を促すことができるのではないかと考えられます。このように考えていくと、ここまでは母語のことでお話してきましたが、外国語学習にまで応用できるのではないかと注目されています。もちろんこの乳幼児の時期は、単なる真似といっても、親とのソーシャルインタラクション(social interaction、関係)がすごく必要です。例えば長男、長女、一人っ子というのは、やや全体的に言葉の発達の時期も早く、語彙獲得の爆発傾向もよくみられるのですが、インタラクションの量に関係していると思われます。

 なじみのある語とない語という話をしました。なじみのない語を極端に進めていくと、意味のない語になります。これが無意味語と言われているもので、少し大きな子どもたちを対象にした3歳以降の研究ではこの無意味語が使われています。そして無意味語を聞いてすぐに反復することができる能力と、語彙の能力(語彙サイズ)との間には、非常に密接な関わりがあるという研究が行われています。
 先行研究の英語を母語とする3歳以降の子どもたち、例えばバットリーとギャザコールの研究では、様々な語について研究がなされています。それらの研究によりますと、4〜5歳を対象にして、1〜4音節の無意味語を反復させます。音節というのは、例えばcarは母音が一つで1音節語、interestingは母音が4つ含まれ4音節語です。8歳までの子どもを対象として、調査が行われました。例えば4歳から8歳までの子どもたちについて反復の力を見たところ、実際の年齢が上がると反復の力も見事に上がっています。そして、音節数については、どの子どもも同じような傾向であることがわかってきました。
 過去の研究をまとめてみますと、年齢が高くなると反復の力も上がっていく、そして反復の力をみると、その子どもの語彙の能力がわかる。どの年代においても無意味語を反復する力と語彙の能力には相関関係があって、8歳のときよりも実は4歳・5歳のときの方が、その相関が強いということがわかっています。

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 そこで今回の私たちの研究では、それでは英語では今お話したような結果が起きているが、音韻システムがまったく異なる日本語ではどうなのだろうかということに焦点をあててみました。そして、語彙の発達には確かに個人差がありますが、その無意味語を反復する能力と語彙の能力とを比べた時に、反復する能力から語彙の能力が推測できるのだろうか、また、1年後、例えば3歳児の反復する力から、1年後の4歳のときの語彙の能力までも予測できるのだろうかということを調査いたしました。
 ところで、説明のなかで、実年齢と語彙年齢という言葉が出てきます。実年齢というのは実際の誕生日月からの年齢です。また、語彙年齢というのは語彙調査をした結果です。例えば、今回調査した同じ3歳4ヶ月の子2人をみても、4歳くらいの語彙の能力のある子もいれば、6歳くらいの語彙の能力がある子もいます。また、同じ5歳児でも、自分より年齢の下の4歳9ヶ月の語彙年齢である子がいれば、6歳7ヶ月の語彙年齢がある子もいます。幼稚園児の中で、最も高い子で12歳近くの語彙力がある子もいました。
 もう一度本研究のポイントを明らかにしてみましょう。

  1. 日本語を母語とする子どもの無意味語の反復能力から、語彙の発達を予測できるかどうか。
  2. もし予測できるならば、3歳、4歳、5歳の3つの年齢の中で、一体何歳が一番予測が可能なのか。
  3. 英語では可能であったように、例えば7歳、8歳くらいまでも予測ができるのかどうか。
  4. その過程で、母語の知識が反復する力にどのような影響を与えていくのか、その過程を見ていきたいと思います。

 この研究は、昨年と今年と2年にわたり行っています。昨年は、3歳から5歳の子どもたち150名を観察しました。そして、昨年の段階で3歳だった子どもたちが当然今年は4歳になっています。昨年4歳であった子は、今年は5歳です。今年と昨年と少し被験者が違いましたので、全く同じ子どもたちの1年後の力を見るために、同じ被験者を対象として最終的な被験者は3歳児23名、4歳児40名、5歳児60名です。
 無意味語の反復に使った単語は、2モーラから5モーラで、昨年は合計14語、今年は28語です。これを選ぶのに、天野・近藤の1999年のデータを参照しました。天野・近藤はなじみが非常にある語は7、ない語は1として、1から7の客観的なデータをとっていますが、ここでは文字・音声ともになじみのある5度以上の語を使いました。例えば、「ワタ」とか「カガミ」、「シモヤケ」、「オミナエシ」が挙がっていますが、これがもととなる語です。そして、これらの語の後ろの音を前にもってきます。例えば、「ワタ」の後ろの「タ」を前に持ってくると、「タワ」ができます。「カガミ」では「ミカガ」、「シモヤケ」は「ケシモヤ」のように、意味のない語−無意味語を作ります。ところが、「オミナエシ」の場合は同じルールで使うと、「シオミナエ」になってしまい、最後の2音の「ナエ」から田んぼの苗という単語が想像できてしまいます。ですから、そのようなものを排除して、この場合は「ミナエシオ」−初めの「オ」を後ろにもっていくというような工夫をして単語を作りました。
 また、和語にはない不自然な音は避けて配列するようにしました。さらに、アクセントの型については、例えばタというように前にアクセントがある語と、タというように、後ろにアクセントのある語の2種類がある場合に、2種類のアクセント型もすべて満たすように単語を選びました。また、語彙の能力テストについては、元の英語の調査では、British Picture Vocabulary Scaleというものがありますので、その日本語版を使いました。こちらの4枚の絵をご覧ください。例えば、りんごはどれ? 食事はどれ? と指をさしてもらって語彙調査をします。反復は、テープから流れた語を子どもに繰り返し発話してもらいます。ちょっとお聞きください。

【テープ音声より】
「タワ」−「カワ」、「ツダイラマ」−「ツダイヤマ」、「コナデシ」−「コナベシ」、「ミナエシオ」−「ミナエシオ」、「マカド」−「マカド」、「ウカゲロ」−「ウカメロン」。「キサカヅ」−「キサカブ」、「チモ」−「チモ」、「ネキネコマ」−「ネキネコマ」。

 ちょっと聞くと、かなり正確にできているのではないかと思いますが、よく聞くと、例えば、「コナデシ」を「コナベシ」とか、「ウカゲロ」を「ウカメロン」などと発音していますね。

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 調査結果です。
 まず実年齢と語彙年齢についてです。例えば2004年度だけをみても、実年齢が3歳、4歳、5歳と上がるにつれて、語彙の年齢もしっかり上がっています。同じように2005年だけをとりあげても、3歳、4歳、5歳になるにつれて、語彙はしっかり上がっています。つまり、非常に相関が強いという結果です<図1>

 そして、その語彙の能力のある子と少ない子とは多少の差がありますので、平均以上の子たちと平均以下の子たちで比べてみました。平均以上の子でもやはり3歳、4歳と年齢が上がるにしたがって、能力も上がっています。4歳から5歳に上がると、語彙能力も上がっています。また、平均以下の子どもたちでもこの傾向はまったく変わりません。やはり年齢が上がるにつれて語彙はしっかりと増えていくことがわかります。
 次に反復正答率についてです<図2>。実年齢が上がるときに反復能力もしっかり上がっていますが、5歳になると、ほとんど横ばい状態です。あるいは、2005年度はどうでしょう。やや下がっています。つまり、実年齢が上がって語彙年齢が上がっても、反復の能力はそれほど上がっていないということがわかりました。
 反復の力も、強い子と弱い子がいますので、平均より上の子と下の子を比較してみました。語彙年齢が上がっていくにつれて、反復能力は3歳、4歳ではやはりしっかり上がります。平均より上の子でも下の子でも同じようにしっかり上がるのですが、4歳から5歳になると、反復の力はほとんど変わらなくなってしまうということがわかりました。これは、2005年度のデータです。やはり同じ傾向が出ています。
 ここまでの結果からわかることは、語彙年齢、つまり語彙の能力は実年齢とともに確かに上昇します。3歳、4歳、5歳になるにつれて、語彙はどんどん増えていきます。しかし、反復する力は、3歳から4歳は上がりますが、5歳になると頭打ちになってしまいます。
 この反復課題では4歳までの語彙の能力は反映していますが、それ以上は出ていないということがわかりました。考えられる理由としては、アメリカのデータでは英語の無意味語の数を40にしていますが、私たちは少し減らしました。もうひとつは、この繰り返す力は短期記憶の問題なのですが、3歳までに長期記憶の中にいろいろな音韻規則を子どもたちは蓄えているので、例えば「タワ」と聞いても、これは「カワ」だと思ってしまう、「ツダイラマ」は「ツダイヤマ」というように、一部語彙化してしまう、アクセントを日本語の本来の型に聞き間違える、といった問題が考えられます。

 最後のポイントは、予測の問題です<図3>。反復の能力をみたときに、反復が上手にできる子は1年後の語彙能力が伸びていると予測できるのだろうかということです。
 これは3歳から4歳をみたものです<図4>。3歳のときの反復の力と4歳のときの語彙の能力は、5%の有意差で相関が見られます。次は、4歳のときの反復の力と5歳のときの語彙の能力です<図5>。やはり4歳の反復の力を見ると、5%の有意差で相関が見られ、5歳のときの語彙力が予測できます。ところが、5歳になってしまうと、反復の力が必ずしも6歳児のときの語彙の力とは相関が見られません。つまり、予測がつかないことが分かります<図6>
 結論としては、3歳の反復の正答率を見れば、4歳のときの語彙の年齢、つまり語彙発達は予測することはできるし、4歳の反復能力をみると、5歳のときの語彙年齢は予測がつくのですが、5歳以上になるとその後の予測はできないということがわかります。

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 では、その理由を、兼築より、詳しく説明いたします。
 反復が頭打ちになってしまうことについて、具体的な例で説明しましょう。実年齢3歳から5歳まででどのような反復誤りがでてくるのかということですが、実年齢3歳の時には語彙化による誤り、つまり先ほどの「タワ」を「カワ」というというような誤りがすでに始まっています。4歳になるとそれに加えて、先ほどの「ツダイラマ」は「ツダイヤマ」というように語彙化した誤りの他に、「ツダイ−ヤマ」というように2箇所が高くなるアクセントを付与することによって2語として発音するという誤りも見えてきます。5歳になると、今度はアクセントだけを誤る例が出てきます。この例としては、「ミエシオ」という頭から2番目にアクセントの核があるものを、「ミナシオ」と3番目にずらしてしまうという誤りが出てきます。
 このように、誤りがどんどん増えていくということが理由として挙げられます。これは3歳児の「ツダイラマ」を反復したときに語彙化してしまった子と正答した子のものです<図7>。語彙化してしまった子の方が実は語彙年齢がすごく高く、一年後の語彙年齢も大変高くなっています。つまり、反復能力は正答した子よりは低いのですが、語彙の年齢は高いということがわかります。ここでは語彙化とアクセントの複合誤りはありませんが、4歳児になると、今度は語彙化とアクセントの複合誤りが見えてきます。やはりこれでも正答した子と比べると、間違った語彙化とアクセントの誤りをしている子たちのほうが、語彙年齢がいずれも高い傾向が見られます。反復能力は、やはり正答率が正解した子のほうが高いということがわかります。5歳児についても、語彙化した子、語彙化とアクセントの誤りをした子の方が、1年後の伸びもいいということがわかります。反復は正解する子がいいのですが、語彙の年齢は、正解した子は間違った子と比べると、あまり高くはないということがわかります。
 「ダイラマ」という、頭高型のアクセントのものを「ツイヤマ」「ツイ・ヤ」、あるいは「ツイヤマ」−「ツイ」という形容詞に類推してしまう、という例まで含めて、二語化というような現象が見られます<図8>。これはアクセント誤りの例ですが、アクセント型だけを誤るというのは5歳児のみに見られる現象です。このアクセント型のみを誤る5歳児は、正答している子たちよりもはるかに語彙年齢は高いのです。そして、5歳になるまでは、アクセントだけの誤りが出てこなくて、正確にアクセントの反復ができるということがわかります。

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 さて、「ミナエシオ」を用いた調査でも、アクセント誤りをする子の語彙年齢が高いという結果になっています。反復能力もやや高くはありますが、正解した子に比べれば低くなっています。つまり、アクセント誤りをする子は非常に語彙年齢が高いことがわかりますし、アクセント誤りと他の誤りを複合している子も、語彙の年齢は非常に伸びるということがわかります。
 「ミエシオ」を「ミナエシオ」という形で発話するケースについて。この形において、名詞のアクセントは、モーラごとに多数形がどれかというのが決まっています<図9>。それがそのモーラの安定型と言うことができるのですが、この5モーラの場合には、後ろから3番目にアクセントの核が来る形、「ミナエシオ」の形が多数型です。その一つ前にあるものはすごく少なく、この「ミエシオ」を「ミナエシオ」という安定型にアクセントを移してしまうというのが、このアクセント型誤りの理由だと考えることができます<図10>。すると、このアクセント誤りをする子は、母語のアクセントの体系がきちんと確立しているために、無意味語を聞いたときにこの一番安定した形に聞き間違えてしまう、さらに言うと、そこに引きつけてアクセントを発音してしまうような干渉がみられる、ということです。これは語彙年齢が6歳、実年齢が5歳以上の子どもに起こる現象であって、それ以前はまだアクセント体系が定着していないのか、あるいは聞き取りがよくできるのか、アクセントだけの誤りが起きてこないということがいえます。
 このような形で、日本語の場合には単語の構成が多拍語になると、複合語、2つの単語をくっつけて構成しますので、その元の単語も意識でき、語構成が影響して語彙化が起こります。さらにその語彙化が起こった後に、それぞれの元の形のアクセントを付与することもあるし、あるいは定着してしまった語モーラごとのアクセントの安定形にもっていってしまう、という誤りが起こります。そのために、語彙年齢が高い子に、概して母語の干渉が見られるようになってしまいます。英語とは違って、反復能力と語彙の年齢の相関を見ていくと、5歳くらいで相関が見られなくなるということは、このようなことがかかわっているのではないかと思われます。

 最近の外国語学習について、例えば「たくさん真似をすればよい」とか、「繰り返させればよい」という研究が盛んに行われていますが、今回の実験からわかることは、その応用できる年齢が非常に問題で、そのあたりを確かめる必要があり、ただやたらと繰り返させればよいということではないということです。今回の実験結果とアメリカの結果を見ても、3〜4歳の頃にその反復能力が高くなるというか、繰り返すものは非常に効果的なのかもしれませんが、5歳以上になるとただ音だけを聞いて繰り返させることには、少し問題があるかもしれません。そして、これを赤ちゃんに応用した時には、その親とのインタラクション、このあたりの効果を測定していく必要があると思います。


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