教育・一般書社会が要求する教師像の探求 荒巻正六 学校問題研究家 |
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4年前、当時の文部大臣から「新たな時代に向けた教員養成の改善方策について」という諮問を受けた教育職員養成審議会(教養審)が、このほど第三次答申を行った。それによると、これからの教員には従来に比べて格段に高度な創造的能力が要求されている。すでに到来しつつある電脳社会のことを考えると当然のことであろう。 ところで、今月号で書評子が取り上げたいのは、こうした教員養成カリキュラムのなかで指標される教師像ではなく、「こんな教師に会えてよかった」と、子ども、親、市民から言われる、そんな教師像である。次の2書がそれに応えてくれる。 一つは「寅さん」シリーズで有名な映画監督・山田洋次氏の『「学校」が教えてくれたこと』、もう一つは「季刊 人間と教育」の編集長・太田政男氏の『教育について』である。 山田洋次監督は本書の「あとがき」で「『君が代』斉唱が法的に義務づけられ、教師や生徒たちが口をあけて歌っているかどうかということまでがチェックされるという、10年前までは想像もできなかった、怖いような不条理な状況の中で、生徒たちを平和と自由を愛するのびやかな民主主義者に育てるべく、苦しみ抜いているであろう現場の誠実な教師の悩みにはほど遠い場所にいるぼくが、いったいなにほどのことをこの本の中で語れるのだろうか、というのがいまの正直なぼくの気持ちである」と言っている。本書の内容はこのひと言に尽きているが、あえて構成に触れると、夜間中学の教師との出会いから「学ぶということ」を、養護学校の教師との出会いから「教えるということ」を、多くの俳優や監督との出会いから「導くということ」を、そして多くの子どもの作文との出合いから「子どもを育てるということ」を、考えさせる4部構成になっている。どの章にも「こんな教師に会えてよかった」とか「教師はこうあってほしい」という日常生活者の切実な思いが詰まっている。 後者『教育について』は編者のインタビュー記録であるが、やはりあとがきで編者は、現代の教育はあきらかに病んでいる。何かがおかしい。多くの人が教育とは何かを根本から問い直しはじめている。そして教育を問うには、いったん教育界から離れ、教育の外から教育を眺めてみることも大切であるとしてこのインタビューを行ったというようなことを述べている。対談者は、アニメ作家・宮崎駿、シナリオライター・山田太一、俳優・岸田今日子、歴史研究者・網野善彦、作家・落合恵子、美術評論家・窪島誠一郎の6氏である。6氏がどんな教育を考え、どんな教師像を描いているか。紙幅があればいずれも紹介したいインパクトに満ちたものであるが、ここでは読んでいただくしかない。両書とも気軽に読めるが内容は重い。ぜひ一読を勧めたい。 |
『「学校」が教えてくれたこと』 | ||
山田洋次 著 | PHP研究所 | \1,300 (本体価格) |
『教育について』 | ||
聞き手 太田政男 | 旬報社 | \2,000 (本体価格) |