自然科学書生物相互の関係を見るために森田暁 博物館プランナー |
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「環境」は「総合的な学習の時間」のテーマに例示されたものの一つだが、「オゾンホールなど地球規模の問題に実感を持て」と言われても、それは大人にとってすら無理なことだろう。小学校の理科では、生態学的な話題としては古くから森の中の動植物をテーマにしていた。しかし、実際に野山を歩いてみればわかるが、ほ乳類にしろ、両生類・は虫類にしろ、その存在を視認することは難しい。それに対して、比較的わかりやすいのが、淡水にすむ動植物の世界ではないだろうか。 『水と生命の生態学』は、10年前から滋賀県が、水にかかわる生態学の学術的業績をたたえるために設けた「生態学琵琶湖賞」のこれまでの18人の受賞者の研究成果をまとめて1冊の本にしたものである。アフリカ南東部、世界一細長い湖・タンガニーカ湖の多数の魚の共存、ロシア中部のバイカル湖の無脊椎動物などという話題から、アオコ、ユスリカ、ミジンコなどについての研究、さらには、マングローブの生態系や水の浄化の生態学まで、淡水・海水を問わず、水圏における動植物の生態をテーマとした文章が並ぶ。それぞれ、元はれっきとした科学論文だったものだが、新書版向けに書き直しているので、話題にストレートに入っていける。 『貝に卵を産む魚』は、二枚貝の中に卵を産みつけるコイ科の淡水魚である「タナゴ」の仲間の生態についての研究。「タナゴ」は日本に3属12種が分布していて、そのうち何種かは環境庁より絶滅危惧種とされている。「タナゴ」の親は、川底に埋もれている生きた二枚貝を匂いで嗅ぎ分けることができる。雌のおなかの卵が熟すと、産卵管が伸びて、卵を貝の中に瞬間的に注入する。そして、生きた貝のエラの袋に入った「タナゴ」の卵とふ化した仔魚は、貝が吸い込む新鮮な水の供給を受けて、居ながらにして健康に育つことができる。さらに好都合なことは、貝殻によって天敵から守られ、十分に育った後に貝から泳ぎ出るのである。この特異な生活史を持った「タナゴ」の一生とその観察方法が紹介されている。 |
『水と生命の生態学』 | ||
日高敏隆 編 | 講談社ブルーバックス | \980 (本体価格) |
『貝に卵を産む魚』 | ||
長田芳和 監修 福原修一 著 |
トンボ出版 | \1,800 (本体価格) |