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教育書

教育改革の世界的動向を探る


荒巻正六 学校問題研究家

 2000年12月下旬、森首相の私的諮問機関「教育改革国民会議」が最終報告をまとめ、首相に提出した。その内容について、教育現場をはじめ各方面から多様な発言が続いている。教育現場はそれが存在する限り、常に改善改革が求められ、また世界的潮流と無関係ではあり得ない。そこで本号では、教育改革の世界的動向を探る次の書を紹介したい。このことに関し、まとまったものとして書評子の手元にあるのは次の3書である。

 一つは『資料・現代世界の教育改革』(編集代表・海老原治善・三省堂)、次は『世界の教育改革・21世紀への架ケ橋』(佐藤三郎 編・東信堂)、最も新しいものとして『世界の教育改革の思想と現状』(黒沢惟昭(のぶあき)・佐久間孝正 編・理想社)である。教育改革の世界的動向は歴史的に見る必要があるので3書とも紹介したいが、そのスペースもないので、その最も新しいものを取り上げたい。

 本書の編者・黒沢惟昭氏は東京学芸大学教授で、佐久間孝正氏は東京女子大学教授である。本書で取り上げられている国は、欧米先進国として、イギリス、フランス、ドイツ、アメリカ、東アジア・オセアニアからは、ニュージーランド、中国、台湾、韓国、日本である。

 黒沢氏は「はじめに」で「各国の危機の事情、教育の課題は一様ではなく、したがってその対応も多様、多岐にわたっているが、あえて、新しい世紀をめざす教育改革の潮流を大別すれば、次の二つになる」として「一つは、教育の理念と制度をドラスティックに転換しようとする新自由主義(ネオリベラリズム)によるもので、私的競争と自己責任を強調するものであり、もう一つは、社会的公正に力点を置く市民社会をめざすもの」という主旨のことを述べている。氏はさらに「最近の学校選択の自由化」論の一節を設け、イギリスの先例と問題点を詳しく紹介している。

 もう一人の編者・佐久間氏は「教育改革の背景」として、まとめると、「現代を象徴する中心概念はグローバリゼーションないしボーダレスであり、今日、経済、政治、情報には国境がなく、かつて国内で起きていたことが世界的に起きている。企業は多国籍というより無国籍であり、インターネットを見ても、世界は本質的に近代国民国家の集りではなく、世界市民社会に変わりつつある。教育もその例外ではない。今や人類にとって何が共通の価値であり、普遍的なものであるかが問われている。教育はそれに応えるものであるべきである」と書いている。取り上げられた各国がどのような教育改革の課題を抱え、対応策を取りつつあるかを見ることは、日本の教育改革にとって大いに参考になる。ぜひ一読を勧めたい。



世界の教育改革の思想と現状

『世界の教育改革の思想と現状』
黒沢惟昭・
佐久間孝正 編
理想社 \3,300
(本体価格)

株式会社 ベネッセコーポレーション ベネッセ教育研究所発刊
月刊/進研ニュース[中学版] 第263号 2001年(平成13年)4月1日 掲載


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