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教育書

学校選択の自由化を考える


荒巻正六 学校問題研究家

 東京都品川区、日野市をはじめ、全国各地で学校選択の自由化が進んでいる。この背景には臨教審答申の「教育の自由化」提言や、旧文部省の「通学区域制度の弾力的運用について」という全国教育委員会向け通知がある。

 そこで本号では、学校選択の自由化が本当に教育にプラスになるのか、子どもたちに平穏な学習生活をもたらすものになるのかを考えてみたい。そのことを徹底的に究明したのは、かつて本紙でも連載を執筆されていた東京大学教授・藤田英典氏の『市民社会と教育』である。本書はきわめて広い範囲の教育分野について、新時代の教育改革の私案として論じたものであるが、ここではその第二章「学校選択自由化の問題性」を紹介したい。以下はその要点である。

・学区制の枠がなくなれば、保護者は当然よりよい教育を求めて学校を選択するであろうし、学校側でも、よりよい教育を行って保護者の信頼に応えようと、いっそうの努力をするであろう。こうして学校間に競争原理が働くようになり、総じて学校はよくなるとの主張がなされている。そうすると従来、学校にある競争態勢が学校をめぐる諸問題(いじめ、不登校、校内暴力、非行等)を悪化させていたとして、受験競争是正、偏差値追放、学歴社会批判を長い間言い続けてきたことはいったいなんだったのか。それは疑わしいことになる。

・行かされる学校より行きたい学校へというが、何かの観点(上級学校への進学率、いじめなどのない安全性等)で志願者の多く集まった学校は入学者を選ぶことになる。その選ぶ基準は恐らく、家庭の経済力、教育力、子どもの学力等であろう。その結果、入学できなかった子どもは行きたくない学校へ行かされることになる。こうしてすべての家庭、子どもに平等に開かれているという公教育の基盤を、学校選択制は崩すことになる。

・学校選択制のはらむもう一つの重大な問題は、地域の多様な人々が協力して、自分たちの学校をつくっていくという地域社会学校は成立しなくなり、従来あったものは崩壊するという点である。コミュニティスクールの理念はいったいどうなるのか。

・学校を選ぶ権利があるという主張は、新自由主義的な自己決定、自己責任論の流行を背景にしているが、子どもの自己決定能力は未完なものであり、実質は保護者が決定しているのではないか。そして、その結果だけを子どもに負わせようとするのは欺瞞である。

 等々、著者の学校選択制に対する問題指摘は厳しい。なお本書では、中・高一貫教育、総合的な学習の時間、学力低下問題、情報教育、学校評議会、不適格教員問題、カウンセリング体制等々について鋭い視点で現代教育改革論を展開している。余力あらば全章をぜひ一読されたい。



市民社会と教育

『市民社会と教育――新時代の教育改革・私案』
藤田英典 著 世織書房 \2,900
(本体価格)

株式会社 ベネッセコーポレーション ベネッセ教育研究所発刊
月刊/進研ニュース[中学版] 第265号 2001年(平成13年)6月1日 掲載


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