自然書現代生物学の案内書から探す導入の素材 森田暁 博物館プランナー |
|
タイトルとシリーズ名から、中学校や高校の生物系科目の教科書の内容を簡潔にまとめた“学習用の小事典”だと思ってはいけない。本書は、最先端の研究成果を含め、現代生物学の視点から、細胞・DNAからクローン技術、ヒトゲノム、種の多様性まであらゆる話題についてやさしく解説してくれる。つまり、ある意味では、30年以上前に生物学の基礎を学び、その後は学習の機会のなかった人たちを、飛躍的な進歩を遂げた現代生物学の世界へ誘う案内役であるといってもよい。 例えば、「アポトーシス」という項目がある。多細胞生物の体ができるまでには、あらかじめ死ぬべくプログラムされた細胞が存在する。例を挙げると、胎内で指ができるときには、手の先にまず水かきのようなものができ、その後、指と指の間の部分の細胞が死んでいって、最終的に指となる。このように特定の時期に死んでいくことがあらかじめ決まっている細胞の死を「アポトーシス」という、と本書では解説している。 「イントロン・エキソン」という項目では、遺伝子DNAの塩基配列のうち、タンパク質をつくる暗号になっている部分をエキソン、その間にはさまっている、意味を持たないと思われる部分がイントロンということ、そして高等動物の場合、エキソン部分は1〜2%しかないと説明がなされる。 「共生説」という項目がある。1970年にマーグリスという学者が最初に提唱した説だが、細胞内小器官のうちミトコンドリアや葉緑体などは、真核生物(核膜で囲まれた核を持つ)の中にもぐりこんだ他の原核生物(DNAが裸の状態で存在する)がその起源だというのである。 さらに、「系統分類」の項目では、最新のDNA解析によってマッコウクジラがハクジラよりもヒゲクジラに系統的に近いことがわかったことが記されている。 このように全体としては、生物学用語事典というよりも最新のテーマごとの短い文章を連ねた生物に関する読み物としての色彩が強いものとなっている。 3人の著者はそれぞれ、石浦章一が東京大学大学院総合文化研究科教授、小林秀明が慶應義塾女子高等学校教諭、塚谷裕一が岡崎国立共同研究機構基礎生物学研究所助教授である。 本書の内容は、どれをとっても中学校の授業での子どもたちの興味を引く、うってつけな話題を提供してくれるものではないだろうか。 |
『事典シリーズ 生物の小事典』 | ||
石浦章一・小林秀明・塚谷裕一 著 | 岩波ジュニア新書 | \1,400 (本体価格) |