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教育書

教師は学校事件に
どう対応すべきか


荒巻 正六 学校問題研究家

 このところ相次いで「学校事件」の総まとめ的出版物が発行された。その一つは、早稲田大学教授・下村哲夫氏の『学校事件――そのアカウンタビリティ』であり、もう一つは『教育判例ガイド』(浪本勝年ほか著、有斐閣)である。前書は32の事例が、後書には81の判例が集録されている。

 毎日の新聞、テレビを見ても、学校にかかわる事件が報道されない日はない。社会全体が事件と背中合わせの状態にあるのだから、それは当然かもしれない。事例や判例に多く接することは、同じような事例に接したときの対応の仕方を学ぶことになり、また予防に役立つことと思われる。両書ともすぐれた編集であり、解説なので、余裕のある方は両書とも読んでいただきたいが、ここでは下村哲夫氏の著書を紹介したい。

 著者は東京教育大学(筑波大学の前身)大学院の博士課程修了で、教育法制論、教育経営、教育行政と幅広い研究のなかで著書も多い。本書で取り上げている32の事例も、一応「学校運営」「児童・生徒」「教育活動」「学校事故」「教職員」をめぐる問題事例として五つの領域に整理しているが、「事件」が学校というシステムを背景に起きるものである以上、それはあくまでも便宜的な分類にすぎないとしている。特に「学校事件」では、「法律の目」「教育の目」「経営の目」が必要であるとし、この複眼的考察を「法律の動態的考察」と名づけている。そしてこの考察の最終目標は、「手術は成功したが、患者は死んだ」などと言われないように「子どもの最善の利益」を踏まえた解釈を念願しているとしている。ここに著者の温かい気持ちが流れている。

 本書の「エピローグ」に「学校事件」に接する場合のいくつかの注意事項が述べられているので、まとめてみたい。その第一は「学校事件」は学校を舞台として起きる事件であるが、同時にそれは、学校を取り巻く社会情勢の急激な変化を、あるいは急激には見えないが、着実に進行しつつある変化の反映であることに着目すべきであるとしている。

 第二に、その変化がどのような未来につながるものであるか、正確に予測できる者はだれもいない。「希望」という名のロケットのクルーとして「先行き不透明」な未来に向かって暴走し続けているのかもしれない。そこで著者は、本書の趣旨である「法律の動態的観察」により、「不透明な未来」を占うことができないわけではないとして読者に「学校事件」の吟味を呼びかけている。そしてその理解が、私たちの乗り込んだロケットの針路の修正に応じることもあろうと期待している。

 書評子は実に多くのことを本書から学んだ。教師のみならず、社会一般の方にもぜひ一読を勧めたい。



学校事件

『学校事件―― そのアカウンタビリティ』
下村哲夫 著 ぎょうせい \2,667
(本体価格)

株式会社 ベネッセコーポレーション ベネッセ教育研究所発刊
月刊/進研ニュース[中学版] 第269号 2001年(平成13年)11月1日 掲載


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