自然科学・一般書優れた案内人とともに、現代科学のパズルを解く 塩野米松 作家 |
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ジグソーパズルの最後の1枚を入れる快感は、そこに至る苦労をいっぺんに吹き飛ばしてあまりあるものがある。 パズルを解くカギは、小さなかけらに残された、ほんのわずかのヒントである。 現代は、巨大な科学のジグソーパズルのようなものである。現代社会がここまできた陰には、無限に近い科学知識の断片の寄せ集めがある。 その量の多さは手に負えないのひと言につきる。1日の生活を振り返っただけで、そこに蓄積された科学の知識の多さに目を回し、使っている道具に集積された原理や法則の数を想像しただけで気を失いそうになる。 だからといって科学の知識を無視しては、土台のない家に住むようで心細く、大変な楽しみを包みをほどかずにしまい込んでしまっていることになるのかもしれないのだ。途方に暮れそうな知識の海のなかで頼りになるのは、科学はそもそも簡単な疑問から始まったはずという思い込みと、よき案内人である。 ここに取り上げた2冊は、そんな科学のよき案内人が書いた本である。 『お天気歳時記』はNHKの気象キャスターとして知られた倉嶋厚氏の書いたもの。「空の見方と面白さ」のサブタイトル通り、「地球全体が雲で覆われる事はない、簡単に言えば半分が雲で半分が青空」「大気中の水蒸気が全部雨になったとしても地球全体にたったの25ミリ降らせるだけの量しかない」などの“科学的な知識”が盛りだくさん。さらに彼が自分の経歴や読書日記、雑誌や新聞に書いたコラムを紹介し、案内人倉嶋の背景を説明、科学の海に迷えるわれわれに安心してついてこいと説得してくれる。 『向井千秋の宇宙と体のおもしろい関係』は、日本人で初めてスペースシャトルに乗り、数々の科学実験を行ってきた向井さんが、質問に答える形式で、宇宙での体験や原理、今にいたる体験を語った本。シャトルでの入浴の仕方やトイレの入り方などの話の裏に、重力や宇宙での原理がわかりやすく話される。 二人は実験室に閉じこもったままの科学者ではなく、開かれた科学者である。彼らが話してくれる内容はぼくらの身近な疑問であり、答もなるほどとうなずけ、読後にジグソーパズルの1片が正しくはまった時の爽快感がある。 この2冊の本から得た知識を、友人や子どもたちに話してやった。そういうことができるのは書き手によって科学が正しく、中身がおもしろく説明されているので、読んでわかった気がしたからである。 科学者たちは、時々道標を残すために、こうした優れた案内人を派遣する義務がある。 |
「お天気歳時記」 | ||
倉嶋 厚 著 | チクマ秀版社 | \1,500 (本体価格) |
「向井千秋の宇宙と体のおもしろい関係」 | ||
向井千秋 著 | NHK出版 | \1,262 (本体価格) |