教育書子どもと援助者の関係を考える永井聖二 群馬県立女子大学教授 |
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日本の教師の教え方はうまいといわれる。ただし、それは子どもたちを集団としてまとめ、集団を動かすという方向での話である。 ところが、今日の日本の子どもたちは、教師からの個別的な働きかけを求める傾向が強い。これからの教師には、集団を単位とした効率的な指導のスタイルから、個別的に励まし、見守る教師の力量を兼ね備える方向へのシフトが求められる。 もちろん、個別的に対応する場合でも、必要な学習をどう保障するかを検討する視点は不可欠だし、他人に迷惑をかけないことの重要性を子どもたちにどう伝えるのかという課題もある。 それにしても、これからの教師の教育力は、一人ひとりの子どもとの個別的なかかわりのなかに求めざるを得ない。それに、おそらく現代の子どもたちが育つ家族や地域の変容の影響を受けることから、生じるものといえよう。 富田富士也氏の『「還る家」をさがす子どもたち』は、―「よくやってるよ」そのひと言がほしかった―の副題が示すように、子どもと親や援助者の関係のあり方を問う事例がまとめられた本として、興味深く読める。研究者の報告とは異なり、「若干の脚色を施している」とのことであるが、紹介された事例からは、さまざまな示唆が得られよう。 率直に言って、私は、現在のカウンセリング万能信仰ともいうべき傾向には疑問をもつ立場である。がしかし、この本の「いま思い返してひと言」と題するコメントは、現代の子どもの状況に対する的確な目配りと、対応の難しさを認めたうえでの主張に好感がもてる。 もう一つ、山田暁生氏の『子どもを変えた教師の一言』は、子どもたちのやる気を生かす教師の一言や、逆に子どもたちを傷つける教師の一言の事例が、著者の経験をもとにさまざまに語られる。 終章には「子どもを深く理解し、受け入れられる教師になるための10のチェック・ポイント」「『一言が子どもを変える』教師のあり方10のポイント」などが付され、現場の教師にとって懇切な構成である。 取り上げられている例が回顧的なものなので、今時の子どもたちの反応が気になるのが正直なところだが、示唆に富んだ先輩教師の思いとして受けとめたなら、現役の教師がこれからの教師−生徒関係のあり方を考えるよき素材として生かすことができよう。 |
『「還る家」をさがす子どもたち』 | ||
富田富士也 著 | 東山書房 | \2,286 (本体価格) |
「子どもを変えた教師の一言」 | ||
山田暁生 著 | 学事出版 | \1,400 (本体価格) |