自然科学・一般書謎めく生態を解く道案内の書塩野米松 作家 |
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昆虫の生態に疑問を持つことが多い。アリが餌を運ぶようすを見ても、みんなが力を合わせているとは思えない。大勢で餌に取りつき、勝手な方向に引っぱっている。それでもみんな巣に運びたいのであるから、いつかは餌は巣に運び込まれるのだが、統一の意志があれば、もっとさっさと運ばれていただろう。 こんなようすを見ても、これにはこれなりのわけがあり、科学者はアリの動きに関する答えを見つけ出しているに違いない、とぼくは思っていた。すべて学者たちは知っているのだが、ぼくらだけが知らないのだと。 しかし、そうじゃなかった。地球上にはあまりにたくさんの生き物が棲んでおり、それぞれがすべて違った生活をしていて、研究しつくすことなんて無理なのである。 そのことを『虫たちの謎めく生態』は教えてくれる。 著者は、大学の動物学部を卒業してはいるが、学者ではない。日常的な、だれでもが持つ疑問を抱える養蜂業を営む主婦である。水の上を滑るように動くアメンボに魅せられると、図書館に通い資料や論文を読む。自分で飼い、観察し、疑問を整理し、研究者を探し、訪ねる。その過程で「アメンボ研究」という奇妙な世界の現状を教えてくれる。 ほかにもザトウムシ、カマドウマ、ヌカカ、アブ、ブユ…著者は身近な虫たちの生態に興味を持って取り上げる。 なんでもそうだが、不思議に思うだけでは、扉は閉ざされたままである。どうすることで、閉ざされていた扉が開かれるのかを、彼女は示して見せてくれ、開けた時に見られる世界のすばらしさを身近な昆虫を通して教えてくれた。“地球はまだまだ解けぬ謎に満ちている”と、この本は教えてくれる。 『プログラムとしての老い』は、動物行動学の権威である著者・日高敏隆が、人間はなぜ老いるかについて解いた本である。かつて動物学は、「動物たちは種族維持のために生き、行動している」と複雑な生き物たちの行動を説明してきた。ぼくは動物たちの日々の行動を見ると、そうじゃないんじゃないかなと疑問に思っていたが、「動物の行動は種族のためではなく、自分の遺伝子を持った子孫を残すため」であったと解かれると、納得するところがある。 しかもわれわれの行動はすべて、遺伝子が自分が生きのびるためのたくらみによってプログラミングされているのではないかという。 そして「老い」は遺伝子を残し終えたものの姿であると言うのだ。暗然とするとともに、なるほどとも思う。 命あるものの行動は謎ばかりである。そうしたなかで道案内をしてくれる2冊である。 |
『虫たちの謎めく生態』 | ||
スー・ハベル 著 石川良輔 監修 中村凪子 訳 |
早川書房 | \2,800 (本体価格) |
『プログラムとしての老い』 | ||
日高敏隆 著 | 講談社 | \1,500 (本体価格) |