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教育・一般書

改革者の足跡を手がかりに
学校のあり方を考える


永井聖二 群馬県立女子大学教授

 大正デモクラシーを背景とした革新的な教育実践は、「大正自由教育」として知られている。中野光氏の『教育改革者の群像』は、この時期の新教育運動にかかわった8人の教育実践者の列伝である。

 取り上げられた8人の主張はもとよりさまざまであるが、自由、体験重視の主張など、今日の改革の方向性と驚くほど似ていることが興味深く、悲しくもある。

 まずは、千葉師範の「自由教育」で知られ、やがて千葉を追われて今日私鉄の駅名に名をとどめる「自由ヶ丘学園」を創設するものの、学校経営の困難のうちに死を迎える手塚岸衛、パーカーストの「ドルトン・プラン」を紹介し、明星学園の創始者にして研究学校を目指しながら、戦時中には国策に協力して戦後、公職追放される赤井米吉、ユニークな自由主義の中高等教育機関、文化学院の創始者で、逆に戦時中は拘置所に留置されることになる西村伊作。

 このほかにも及川平治、下中弥三郎、北原白秋など、この時期の教育改革者の思想、志と実践、行動の軌跡が、見事に読者に迫ってくる。今日のわれわれからすれば、すでに完結した先人の業績の限界を指摘することは容易ではあるが、苦難のなかで自ら信じる教育の道を歩む先人の姿は、われわれに多くの示唆を与えてくれる。

 ただ私としては、その後の新教育運動が、昭和期の軍国主義的な動向の強まりはあるにせよ、学校経営の恒常的な困難、新しい学校を支持した親たちの社会的性格からの上級学校進学への期待などの背景のために、変質したり、消滅したりしたことが気にかかる。そこにこそ、新しい実践の困難の源泉があると思えるのだ。

 もう1冊、子安美知子氏の『シュタイナー再発見の旅』は、シュタイナー学校の紹介者として知られる著者による平易な再訪記である。どんな社会が目指されるのかとのかかわりで、学校から社会に広がる自由への教育の動向を知ることで、私たちには大きな刺激となろう。

 小学校の教師の「愛される権威」「威厳」の必要性など、わが国におけるこれまでの学校の紹介のされ方には欠落しがちであった部分に気づかせてくれるのも、本書の魅力といえよう。

 単に目新しい学校としてではなく、新しい学校とそれを支える社会のあり方、両者を結ぶ思想ともかかわらせて、この学校をもう一度考える手がかりとしたい。


教育改革者の群像 シュタイナー再発見の旅

『教育改革者の群像』
中野光 著 国土社 \1,553
(本体価格)

『シュタイナー再発見の旅』
子安美知子 著 小学館 \1,100
(本体価格)

株式会社 ベネッセコーポレーション ベネッセ教育研究所発刊
月刊/進研ニュース[中学版] 第228号 1998年(平成10年)4月1日 掲載


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