教育・一般書中学生をどう理解するか―冷静で多元的な視点で 永井聖二 群馬県立女子大学教授 |
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神戸の連続児童殺傷事件の犯人が中学生であったことや、その後の少年事件の続発の報道は、「中学生は今、どうなっているのか」、といった議論を沸騰させている。 しかし、一連の中学生論議には、一面的な事実を強引に一般化しているとしか思えないものも多い。近年の少年殺人犯の検挙者を30年前と比較すると、その数が大きく減少していることをみても、情緒的な報道に振り回されるだけでは、有効な対策は何も生まれてこないことは明らかであろう。 入り乱れる中学生論のうち、冷静に検討しようとする姿勢が明確で好感がもてるのは、『こころの科学78号「中学生は、いま」』である。小浜逸郎氏による総論的な論稿のほかに、学校、塾、病院、児童相談所、児童福祉施設など、中学生と直接かかわる執筆者たちの報告が、それぞれに示唆的である。 もう一つ、NHKの「14歳・心の風景」プロジェクトによる『14歳・心の風景』は、神戸の事件での放送番組の資料をまとめたものである。「局内に衝撃が走った」から始まる本だけに、事件に対するセンセーショナルな扱いが危惧されるが、内容は中学生のアンケートやインタビューが中心で、考えさせられる資料が多い。 ただ、インタビューの記録が整理されすぎているのは残念である。また、先入観の混ざったイメージに足をすくわれるのを警戒すべきだと強調している割には、「選抜のはざま」とか「本来のナイーブで率直な心」といった既成のとらえ方が多く目につくのも気になる。そうした枠組みそのものも、問い直される必要があると思えるのである。 そんななかで、河上亮一氏の「ある中学教師からの報告」が、子どもや親と苦闘する教師の姿と教師の対処の仕方の実例を示して、興味深い。私としては、氏の指摘する「社会的自立」の重要性に、おおいに賛同できるのだが…。 今、この年ごろの子どもたちの質的な変化に注目すべきであろう。中学生の現状をどうとらえ、教師はそれにどう対応したらよいのか。教師が自らの体験とかかわらせて考えていく手がかりとして、この2冊を紹介したい。その際、「単純な原因探しの愚を避けて、…多元的に考察し、それぞれの側面から対応のしかたを考えること」が重要だという指摘(「中学生は、いま」巻頭言)を、ぜひとも心にとめてほしい。 |
『こころの科学78号「中学生は、いま」』 | ||
滝川一廣 編 | 日本評論社 | \1,143 (本体価格) |
「14歳・心の風景」 | ||
NHK「14歳・心の風景」プロジェクト 編 | 日本放送出版協会 | \1,500 (本体価格) |