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教育書

授業に新しい風を


荒巻正六 学校問題研究家

 「先生、質問」とか言って、授業の流れをそらすようなことを勝手にしゃべり出す。教室内をうろつき、室外に出たりする。注意すれば反発する。小・中・高を問わず、授業が成立しないことが多くなった。まさに授業崩壊である。学びへの無関心が蔓延しているのか、知的好奇心が衰退したのか、それとも教師の指導力が低下しているのか。そこで今回は、従来の日本型授業に新しい風を巻き起こそうとする二書を紹介したい。

 一つは、京都にある国際日本文化研究センターの教授陣が、隣接する桂坂小学校長の依頼を受けて、同校の5、6年生を対象に行った授業記録『小学生に授業』である。ここでは哲学者・梅原猛氏が「学問の楽しさ」について、自然人類学の尾本恵市氏が「自然に学ぶ」を、比較文化史の芳賀徹氏が「俳句」について、そのほか中国文学、ロシア政治学、環境考古学などの当代きっての碩学9人が熱血授業を展開している。それぞれの専門家が45分間でその難しいテーマについていかにわかりやすく説いていくかは実に興味があった。臨床心理学の河合隼雄氏の「道徳」の授業は、「徳は体で身につけるもの」という氏の独特の思想に基づく異色のものであったし、芳賀氏の「俳句」などは、数年前から俳句を始めた書評子にとっても「なるほど、そうか」と思わせるものだった。どのテーマについても、「もし自分が授業をするとしたら、好奇心を起こさせ、興味深い授業展開にするには、どう組み立てていくか」を考えてから、本書を読まれるのもおもしろい。授業を楽しくする工夫がそこにありそうである。小学生対象のわかりやすい授業記録なので、1日で全部読みきれる。気楽に読まれたい。

 もう一つは、ビデオでとらえた授業の姿を各界の専門家(例えば、教育方法学の稲垣忠彦氏、臨床心理学の河合隼雄氏、認知心理学の佐伯胖氏、詩人の谷川俊太郎氏、その他)やベテラン教師といわれる人たちが、授業改善という視点で徹底討論するというかたちをとった各科別全十巻『授業シリーズ』の別巻『授業の世界 アメリカの授業と比較して』である。アメリカの学校の荒廃ぶりはすでに諸兄の知るところであるが(本書でも全米50校の学校訪問、約200の教室で授業観察した東京大学教授の佐藤学氏が詳しく分析している)、そういう状況のなかでアメリカの教師および社会が、子どもに豊かさ、想像力、表現力、共同性を育てようとしているようすがよくわかる。

 編集者も言う通り、アメリカと日本の文化差もあるし、そのままを提供しようとするものでもない。本書もまた、「よい授業とは何か」を問い続ける探究的精神で、絶望的ともいわれる今日の教室に新しい風を巻き起こそうとする一書である。実践的でかつ理論的な教師に勧めたい本である。


小学生に授業 森の自然学校

「小学生に授業」
河合隼雄・梅原 猛 編著 小学館文庫 \514
(本体価格)

「授業の世界 アメリカの授業と比較して」
稲垣忠彦ほか 著 岩波書店 \2,330
(本体価格)

株式会社 ベネッセコーポレーション ベネッセ教育研究所発刊
月刊/進研ニュース[中学版] 第233号 1998年(平成10年)9月1日 掲載


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