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一般書

エッセイは隠れた宝を
掘り起こす


あわやのぶこ 異文化ジャーナリスト

 前年度の日本の雑誌に掲載された膨大な数のエッセイのなかから、毎年、日本エッセイスト・クラブと日本文藝家協会が、それぞれにベストエッセイを選び、単行本化している。前者は文藝春秋、後者は光村図書出版から発行しているが、どちらも夏から本屋に並び、エッセイ好きを大いに楽しませている。また、これらの本に掲載された文のなかから、よく国語の入試問題が出題されるので、教育関係者なら、どちらの本にもなじみがあるに違いない。

 おのおの6、70編ほどのエッセイが収録されており、いわゆるアンソロジーと呼ばれる形式の本。気軽に読め、色とりどりのタピストリーを味わうかのようだ。

 ちなみに、今年は拙文も掲載されたので手元に送られてきた。この幸運のおかげで(本屋で立ち読みする貧乏性を露呈することなく)多くの文章をゆっくり読み味わうことができた。

 作家のみならず、他の分野の専門家や小学生の作品まで掲載し、ミックス感覚で興味深いのが、日本エッセイスト・クラブ編『最高の贈り物』。『夜となく昼となく』は日本文藝家協会編らしく、そうそうたる文藝家が並び、文章のプロとしての充実感で読み応えがある。また、同じ作品が両方の本に掲載されていたり、同じ書き手の別な作品がそれぞれに載っている場合もある。

 いずれにしても、ベスト・エッセイ集のおもしろさは、エッセイというカジュアルなメディアのなかに、現代の人々の心の形が静かに浮き上がってくることだ。個々の作品だけでなく、まとまった数の作品群を読み終わると、私たちが住む今の空気が内側からわかってくるような気がする。

 もともとエッセイとは随筆を指すだけではなく、例えばイギリスでは論文や評論を示すことが多い。エッセイストが政治評論家を意味するのもなんら不思議ではない。だが、日本では、エッセイストというと身辺雑記を書く有名人を連想してしまうし、ついでに言えば、評論家はとかく予想屋、解説屋の類いになってしまう。どちらにしろエッセイは敬遠してしまうという人も案外多いのではないか。

 だが、本書を読んで改めて気がついたのは、現代とは、もののプロセスが見えにくい時代だということ。結果を見せる。キーワードでくくる。そんな風に構成されているような現代にあって、エッセイは、日頃見えないものごとのプロセスや人の感情の機微や揺れ、隠れた感情を描き、隠れた宝を掘り起こす。短文が心に残るのはそういうことではないだろうか。


最高の贈り物 夜となく昼となく

『最高の贈り物』
日本エッセイスト・クラブ 編 文藝春秋 \1,381
(本体価格)

『夜となく昼となく』
日本文藝家協会 編 光村図書出版 \1,900
(本体価格)

株式会社 ベネッセコーポレーション ベネッセ教育研究所発刊
月刊/進研ニュース[中学版] 第235号 1998年(平成10年)11月1日 掲載


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