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教育・一般書

学習や生活意欲の生まれる
「場」を求めて


荒巻正六 学校問題研究家

 今年の8月、文部省が公表した「学校嫌い」を理由とする不登校の小・中学生は、ついに年間10万人を超えたという。ところが報道によると、親も本人もさほど深刻に悩んでいるようすはない。

 いじめ、不登校、暴力等々…、教育の「場」がこれでよいのか。ベネッセ教育研究所の所報(vol.15-1)で注目すべき研究報告『中学生のもつ「場」における意欲』の研究報告書を発表した。そこで今回は、その「意欲の生まれる場」すなわち教育の原点が、こんなところにあったという異色のレポート2書を紹介したい。

 その一つは、本木修次氏の『小さい島の分校めぐり』である。氏は東京高等師範(東京教育大学〈現筑波大学〉の前身)地歴科出身で、東京の中学校長、教育委員会指導主事を歴任、現職時代から、離島にこそ人間の生活や学習の原点があるに違いないという信念で、日本の全有人離島436の島々を回り続け、今もそれを続けている。離れ島に関する著書も多く、本書はその離島の分校の人と生活し、教育事情を生き生きと綴った踏査記である。一例を挙げると、開巻最初のレポートは、日本最北限の島・礼文島(著者はこの島に6回も渡っている)の須古頓(すことん)小学校(児童6人)と日本最西端の島・与那国島の比川小学校(児童14人)が、姉妹校として、航空機、船を乗り継いで交流を深めるという胸の熱くなる実況である。本書に集録されている分校は78校であるが、不便だらけの島の学校には、怠学もなければ不登校もない、温かい心が満ち溢れている。著者は、島の学校にこそ「意欲の生まれる場―教育の原点」を見たという。

 もう一つは、山形大学教育学部出身で、庄内民俗学会会員、歴史教育協議会員である松田国男氏の『民俗行事子ども風土記』である。内容は、離島と正反対の内陸部の民俗行事のなかに見られる児童・生徒の生活や学習ぶりの探訪記である。珍しい民俗行事はテレビなどでもよく放映されるが、学習の場として焦点を当てたものは少ない。

 本書は書評子が、東北地方を旅行した時入手したもの(地方出版物)であるが、読者諸兄の身辺の民俗行事のなかにも「意欲をかき立てる学習の場」を見いだすことができるであろう。海にせよ、山にせよ「意欲の生まれる場」には「協同的目標構造」(前掲所報25ページ)が見られる。それはどんなものか、紹介書と併せて所報もぜひ一読されたい。


小さい島の分校めぐり 民俗行事子ども風土記

『小さい島の分校めぐり』
本木修次 著 ハート出版 \2,000
(本体価格)

『民俗行事子ども風土記』
松田国男 著 六兵衛館 \1,800
(本体価格)

株式会社 ベネッセコーポレーション ベネッセ教育研究所発刊
月刊/進研ニュース[中学版] 第235号 1998年(平成10年)11月1日 掲載


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