自然科学・一般書音を“科学”し、音楽を“観察”する 塩野米松 作家 |
|
音は目に見えず、言葉のように再現しづらいくせに、人の心を動かす妙な力を持った存在である。 小学生の時、音叉の実験を見た時は驚いた。一方の音叉を鳴らすと、離れた音叉が共鳴して音を出したのである。 子ども心に、音はこうやって人の心も揺するのかと感心した。この実験は僕を驚かせたが、音というのは不可思議な力を持った存在であるという印象も植えつけた。 「音は振動である」と科学的に説明され、波長だとか振幅だとかいわれると、専門家の領域という感じがあるのだが、演歌、ポップス、ジャズも音だといわれれば、ごく身近なものにもなる。 僕は、音の再現がうまくできない(早い話が音痴らしい)。なぜそうなのかは、うすうす気がついている。音を「言葉」に置き換えて理解しようという「言語偏重」の考え方をしているからだ。音を音として素直に受け入れる訓練を積んできていれば、もう少し違ったのではないだろうか。歌を聴いて悲しくなったり、心を洗われた爽快感を持つし、管弦楽や弦楽器の音を聴いて感動するのだから。 それにしても、音はなぜ人の心を動かすのだろうか。 今回紹介する2冊は「音」に関する本である。 『音のなんでも小事典』は、日本音響学会の6人のメンバーが専門の項目を担当して編んだもの。いずれも戦後生まれの若い工学系の学者たちで、サブタイトル通り「脳が音を聴くしくみから超音波顕微鏡まで」を網羅してある。 幻聴や空耳、カラオケの科学や音痴のこと、ホーミーの不思議まで、音に関することをおもしろく、やさしく科学的に紹介してある。 『音楽からみた日本人』は、日本人はもともとよく歌う民族だった、そしてその歌は人が人らしく生きるための支えであったのではないかという出発点から、「言霊(ことだま)」に対して「歌霊(うただま)」というものがあるのではないかと提案する。 聴く人に感動を与える歌というのは、「歌霊」がある力を持って聴く心を揺すぶるのではと。 民族によるリズム感の違いや日本の音楽の起源、笛や太鼓、琴の故郷はどこであり、それがいかに伝わり、日本人の心を育ててきたかなど、豊富な資料と点検、観察で音楽から見た日本人論が展開されている。風に対して開かれた耳を持つ日本人の音楽感や「ビフテキ声たくあん声」の分類考察など、思い当たったり、うなずかされることが多い。 音楽は風土が育てた民族固有のものと説く本書は、クラシック偏重の日本の現代の音楽観、音楽教育の批判書でもある。 |
『音のなんでも小事典―脳が音を聴くしくみから超音波顕微鏡まで』 | ||
日本音響学会 編 | 講談社 | \796 (本体価格) |
『音楽からみた日本人』 | ||
小島美子 著 | NHK出版 | \870 (本体価格) |