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ヤングアダルト

傷ついた子どもたち


渡辺正樹 文芸評論家

 先頃、相次いで出版された、森絵都の『カラフル』と『つきのふね』が、なかなかおもしろかった。心に傷を負った中学生の男女が主人公のこの2作を、今回は紹介したいと思う。

 まず、『カラフル』だが、物語は主人公の「ぼく」が死亡して「天上界と下界の狭間」で天使と出会うところから始まる。天使の名はプラプラ。彼(彼女?)の説明によると、「ぼく」はどうやら大きなあやまちを犯して死んだ「罪な魂」で、通常ならばもう二度と生まれ変わることができないらしい。ところが、抽選により「ぼく」には一定期間、下界にいるだれかの体を借り、その家庭で「ホームステイ」をする「再挑戦」のチャンスが与えられたという。挑戦によって前世での記憶を取り戻し、自分の罪を自覚することができればホームステイは無事終了。

 こうして「ぼく」は、プラプラを案内役に、服薬自殺をした小林真という中学3年生の少年として、いやいやながら下界に戻る。当初は、再びひどい目にあう可能性のある生まれ変わりを望まなかった「ぼく」だが、プラプラや真の家族・友人とのかかわり合いのなかで少しずつ変化していく。

 この作品ではプラプラという、すぐに傷ついたり傷つけたりする人間ではないために、「ぼく」が本音を言うことのできる相談相手が登場した。

 一方、『つきのふね』に登場するのは、すべて「傷つき、傷つけやすい」人間である。

 物語の主人公は、中学2年生の少女・鳥井さくら。彼女はあることが原因で、「人間をやっているのにも人間づきあいにも疲れて」いて、親友の中園梨利との関係もうまくいっていない。

 そんな彼女が現在安らぎを得ることができるのは、「あること」の際に知り合った青年・戸川智のアパートで過ごす時間だけ。しかし、智もまた心に傷を負って病んでおり、全人類を救うための宇宙船を自分が設計しているという妄想にとらわれていた。

 やがて、梨利に片思いをしている同級生・勝田尚純が、さくらと梨利の関係をおかしくした「あること」がスーパーでの万引きであり、捕まったさくらを逃がしてやった店員が智であることを突き止め、智の部屋に押しかけるようになる。だが、尚純の行動をきっかけに、智の心の病は徐々に悪化してゆく。

 先にも述べたが、この作品にはプラプラのような人間を超えた存在は登場しない。さくらや梨利、そして智の傷を負った心を癒すのもまた人間である。

 子どもたちが傷つきやすくなったという現在、僕たち大人に何ができるのか。今回紹介した2作は、そんなことを考えさせられる作品である。


カラフル つきのふね

『カラフル Colorful』
森 絵都 著 理論社 \1,500
(本体価格)

『つきのふね』
森 絵都 著 講談社 \1,400
(本体価格)

株式会社 ベネッセコーポレーション ベネッセ教育研究所発刊
月刊/進研ニュース[中学版] 第236号 1998年(平成10年)12月1日 掲載


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