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一般書

女の子と女の人


あわやのぶこ
 異文化ジャーナリスト

 ショショニ族のインディアン「ナヤ・ヌキ」は11歳の少女。ある日(白人の歴史では1801年)、抗争に巻き込まれ、敵の部族に囚われの身となる。遠い村に連れ去られたナヤ・ヌキの思いは故郷や母のことばかり。思いあまって、脱走しようと親友のサカジャウィアを一緒に誘う。だが、彼女は白人の家に買われていく。ついにナヤ・ヌキは故郷を目指し、たった一人で大草原の決死行に出る。

 『ナヤ・ヌキ』は、アメリカ西部開拓史につながる実話だ。19世紀に入ったばかりのアメリカ北部、ノースダコタ州からモンタナ州に渡る1600キロ、40日間におよぶ旅。これは、11歳の少女の冒険物語というにはあまりにも危険で過酷な旅だった。

 自然と共に生きていた先住民インディアン。ヤマネコやコヨーテを食用に捕まえ、バッファローは生で食べて、残った肉を干し肉にする。植物の根っこはつぶして乾燥させる。薪を集め、火を起こし、木の実を摘む。子どもも大人も生き延びるための仕事を毎日こなさなければならない。空や空気、周りの変化に敏感でなければならない。

 そうして生きてきたナヤ・ヌキの感性の鋭さ、意志の強さや計画性、そして偉大なる勇気が決死行をみごとに成功させる。その凛々しく賢く、そしてけなげな少女の姿が、現代というふわふわした世界に浸りきったわれわれの心を揺さぶる。

 さて、ところ変わって、現代のイギリスはロンドン。出版社に勤める一人暮らしの30代のワーキング・ウーマン、ブリジット・ジョーンズ。キャリアも積みたい、恋人も欲しい。が、このどちらにも妙に入れ込みたくはない。

 禁煙、節酒、ダイエット、貯金、自信をつける、自己主張をする、時間の有効利用、豆類の積極的な摂取、目覚めとともにベッドを抜け出す、写真の整理、責任感のある大人との実際的な関係の構築…など自ら掲げた「心がけ」には失敗。仕事の先延ばし、家でのだらしない行動、男性の言動への過剰反応、特定の人物への苛立ち、恋人がいないからとふてくされること…など「禁止事項」は守れない。

 そもそも、現代の女性も少女も多かれ少なかれブリジット的な世界にいながら、ナヤ・ヌキのような真剣な素晴らしい理想に憧れる。女の子が主人公の宮崎駿のアニメ人気も、そんなカラクリ?

 苛酷な時代と状況下での、果敢な少女vs現代のヘンてこなようで魅力ある女性。本来なら2冊並べるのはオカシイはずだが、こんな現代人の抱える自己矛盾の赴くままに、これら異種の書物が楽しめてしまうから、いとも不思議である。


ナヤ・ヌキ ブリジット・ジョーンズの日記

『ナヤ・ヌキ 大草原を逃げ帰った少女』
ケネス・トーマスマ 著
浜野安宏 監修
おびかゆうこ 訳
出窓社 \1,400
(本体価格)

『ブリジット・ジョーンズの日記』
ヘレン・
フィールディング 著
亀井よし子 訳
ソニー・
マガジンズ
\1,400
(本体価格)

株式会社 ベネッセコーポレーション ベネッセ教育研究所発刊
月刊/進研ニュース[中学版] 第241号 1999年(平成11年)5月1日 掲載


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